2017年2月号
特集
熱と誠
対談
  • ルミネ社長新井良亮
  • 良品計画前会長松井忠三

熱と誠が
経営の道を開く

20代、30代の働く女性を中心に人気を誇り、日本最大のファッションビルとして知られるルミネ。昨今、デフレにより個人消費が停滞する中、同社を率いる新井良亮氏の経営手腕のもと、増収増益を続け、今期過去最高の業績を更新する見通しである。一方、かつて38億円の赤字に陥っていた無印良品ブランドを展開する良品計画。再生不可能と言われながらも、経営トップとして業務仕組み化をはじめとする数々の改革を断行し、社風を変え、V字回復へと導いたのが松井忠三氏だ。熱と誠で道を開いてきたお二人に学ぶ「経営の要諦」「リーダーの心得」とは――。

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創造的な破壊をして次の時代に備える

新井 松井さんとは何度かお会いしていますけど、こうやって膝を突き合わせてお話しするのは初めてですね。

松井 そうですね。私どもはルミネさんには随分長い間お世話になっていて、無印良品の店舗の数も確か……。

新井 全16店舗のうち、現在は7店舗に入っています。

松井 そういうご縁でルミネさんの会合などにも出席させていただきましたが、2008年に良品計画の会長になってからは、社長にその役割を譲り、私が出ることは基本的になくなりました。

新井 JR東日本の副社長だった私がルミネの社長を兼務するようになったのは2011年ですから、直接的にはお付き合いがありませんでしたね。

松井 社長の都合が悪くてどうしても出られない時に、私が何度か代理出席して顔を合わせたくらいでしょう。ですから、きょうは新井さんのお話を聞かせていただくのを楽しみにまいりました。

新井 こちらこそ。どうぞよろしくお願いします。

松井 ルミネさんは働く若い女性から圧倒的な人気を誇り、日本最大のファッションビルとして発展されているわけですが、新井さんは最近の社会動向を踏まえてどう経営の舵取りをなさっていますか。

新井 日本経済はいまデフレからインフレへの転換期であり、様々なことに取り組んでいますけど、実質的な消費動向を見ると、大変厳しい状況を迎えています。とりわけ、我われが扱っているファッション分野においては、酷いところだと15%くらいの落ち込みが続いています。
けれども、その原因が社会経済情勢だけなのかというと、決してそうではありません。市場に対する提案力がない、まあ何とかなるんじゃないかという認識の甘さ、ここに一因があると感じています。
いま起きている現象を調査分析した上で、我われがマーケットの半歩先を行くにはどうしたらいいのか。知恵を出し、付加価値をつけていくにはどうしたらいいのか。そこのところを必死に取り組んでいくことが大事だと思うんです。
おかげさまでルミネの経営はここ10数年間、順調に推移してきました。今期は売上高3,580億円、営業利益129億円と、過去最高を更新する見通しです。従業員も580名ほどいます。
それだけに、社員にいま口酸っぱく言っているのは、「創造的な破壊をして、次の時代のために備えなきゃいけない」ということです。

松井 順境の時こそ、慢心せずに危機感を植えつけているのですね。

新井 経営トップは絶えず将来どうするかを考えなければいけない。そこが一番問われているわけで、過去の成功体験に囚われていても何にもならないです。
また、グローバル化が進む中でビジネスをやっていくには、高い視座を持って俯瞰的に物事を見ることが必要不可欠であり、一方で細部に至るところまできめ細かにやるという、この両方を持たない限り、世界に伍していけません。
で、これらのことを機会のあるごとにルミネの社員のみならず、お付き合いしているショップスタッフ、そこのオーナーさんにも徹底しているんです。従来のディベロッパーとテナント、という上下関係ではなく、我われはパートナーだと思っています。
お客さまに物を買っていただく状況をどうつくるのか、何回も来ていただくためにはどうしたらいいのか。やはり商品だけよくても、店の雰囲気だけよくてもダメで、ショップに来ていただける環境を整え、快適に楽しく買物していただける接客をショップスタッフやオーナーさんと一体となって創造することがとても重要です。その上、お客さまの厳しい目に晒されながら、さらに磨きをかけていく。だから、ルミネとショップとお客さまの三者の関係をどう繋ぐか、ここに最大の力を注いでいます。

ルミネ社長

新井良亮

あらい・よしあき

昭和21年栃木県生まれ。40年足尾高校卒業後、日本国有鉄道入社。東京・八王子機関区で運転士として勤務しながら、中央大学法学部(夜間)卒業。新宿駅、渋谷駅で勤務した後、人事関係業務に約20年携わる。62年国鉄分割民営化に伴い、JR東日本入社。東京地域本社事業部長、常務として、エキナカなどの生活サービス事業を担当。平成21年副社長に就任。23年ルミネ社長兼務となり、翌年より専任。

日本の企業を元気にしていきたい

新井 松井さんは赤字に陥っていた無印良品ブランドをV字回復させた経営者として有名ですけど、いまはどんなお仕事をなさっているのですか。

松井 私は41歳の時に西友から良品計画に出向し、その後、社長、会長をそれぞれ7年やって、昨年(2015年)5月に会長を退きましてね。名刺は名誉顧問という肩書になっていますが、これは本当に名刺だけで、いまは良品計画の経営には一切関わっていません。実際、辞めた後にオフィスに行ったのは1回だけ。
というのも、たくさんの先輩を見てきて、会長を退く時に変に居座るのはやめよう、綺麗に退こうと思っていたんです。それで会長を退いた翌日から、松井オフィスという会社を立ち上げました(笑)。

新井 実に精力的ですね。

松井 良品計画でやってきた経営の仕組みに関して、いろいろなところからアドバイスを頼まれて、いま社外取締役を5社、経営顧問を6社やっています。
それから、講演も結構頼まれますし、あとは公的な仕事も多いんですよ。一番大きいのは今年(2016年)の5月に第1回の表彰式が行われた「日本サービス大賞」、安倍首相の肝入りで創設されたものですが、これの事務局の責任者を務めています。
私は流通サービス業の中で育ったものですから、日本のサービス業がこれからどんどん拡大して、海外と互角以上に闘っていけるように、日本経済の活性化のために役立ちたいなと。これがきっと最後のご奉公になると思って、お手伝いをしています。
加えて、海外からもオファーがあって、いま中国から経営者がたくさん勉強に来ているんです。

新井 ああ、中国人の経営者が。

松井 中国も韓国もそうですけど、自分さえよければいい、できるだけお金を稼いで、株式上場して、という目的で頑張っていた時代はほぼ終わりましてね。いま日本に来て何を勉強しているかというと、三方よしの精神とか他人のために頑張る。こういう概念ってあまりないんですよ。それがこれからの中国には必要だと。彼らも直感的に分かるんでしょうね。
そういう哲学を学びに来る経営者がものすごく多い。本当に大したものだなと感心します。

新井 貪欲ですよね。

松井 だからこそ、もっともっと日本の企業を元気にしていきたい、していかなければならないと思っているんです。
2013年に出版した『無印良品は、仕組みが9割』はありがたいことにベストセラーになりましたが、その本の中で社外秘であるマニュアルをはじめ、V字回復を支えた仕組みを世に公開した理由もそこに尽きます。

良品計画前会長

松井忠三

まつい・ただみつ

昭和24年静岡県生まれ。48年東京教育大学(現・筑波大学)体育学部卒業後、西友ストアー(現・西友)入社。平成3年良品計画に出向し、翌年入社。総務人事部長、無印良品事業部長を経て、13年社長に就任。僅か2年でV字回復を成し遂げ、19年には過去最高売上高(当時)を達成した。20年会長に就任。27年より㈱松井オフィス社長。著書に『無印良品は、仕組みが9割』(角川書店)など多数。