2024年4月号
特集
運命をひらくもの
インタビュー①
  • きのとや会長長沼昭夫

すべてのものに感謝

北海道を代表する洋菓子メーカー「きのとや」。北海道の厳選した素材と手間隙をかけた製法にこだわったケーキや焼き菓子が人気を博し、昨年創業40周年を迎えた。後発かつ全くの素人で始めた事業ながらも、今日の発展を遂げるに至ったのはなぜか。創業者・長沼昭夫氏にその挑戦の軌跡を伺う中で見えてきたもの。それは「運命をひらく要諦」に他ならない。

この記事は約14分でお読みいただけます

「8割主義」と「6・3・1の原理」

──きょうは取材前、しんとせ空港にある「きのとや」さんのお店に立ち寄って購入しましたが、ちょうの列ができていました。

足を運んでくださり、ありがとうございます。2005年の発売から17年間で累計販売数3億枚を突破し、北海道を代表する土産みやげ菓子として知られる「札幌農学校 北海道ミルククッキー」をはじめ、「新千歳空港で空港職員が自腹でも買いたいお土産スイーツ」の第1位に選ばれた「焼きたてチーズタルト」や「新千歳空港ソフト・アイスクリーム総選挙」で4連覇中の「極上牛乳ソフト」など、おかげさまで多くの商品が人気を博しています。

──昨年(2023年)創業40周年を迎えられましたね。

もう40年も経ったのかというのが率直な思いです。1983年、札幌市内のビルの1階で、わずか5名のスタッフと共に始めた小さなお店は、いまでは道内に計10店舗、グループ全体で600名を超えるスタッフ、売上高83億円(2023年6月)の規模へと発展を遂げました。
創業時から一番大事にしてきたのは、おいしさに徹底してこだわり続けるということです。結局、食べ物はおいしくないと再度買ってもらえないので、また食べたいと思ってもらえるお菓子を提供し続けることが基本だと思います。

──おいしさの追求。そのために心懸けてきたことは何ですか?

私は「8割主義」を掲げているのですが、10人中8人がおいしいと言ってくれるお菓子をつくろうと。当然、10人中10人が理想ですけど、現実的に無理なんです。8割の人が支持してくれるお菓子を提供しようと思うと、奇をてらったものではなく、ベーシックなものに必然的にしゅうれんしていく。
私の場合、自分がお菓子をつくれるわけじゃなかったので、いつも消費者側の立場で物を考えられたんですね。だから、当社のパティシエたちにも「絶対に妥協するな」と。やっぱり味が命であって、その味を最終的に決めるのはパティシエではなく、経営トップの責任。この信念でずっとやってきました。そういう意味で、私が菓子職人でなかったことがきのとやの成長を後押ししたように思います。

──繁盛店をつくるけつはありますか?

私の経験上、「6・3・1の原理」が大切だと考えています。ピラミッド型の三角形を描いて、底辺から60%、この土台の部分を占めるのは、先ほどから言っている通り「味」です。
その上の30%、これは「いい店づくり」なんです。お店が清潔でおしゃれだとか、販売員さんがいつも笑顔で誠実な接客をしているだとか、お店の雰囲気がいい。そういうお店に行くと誰かに伝えたくなりますよね。
で、残りの10%が販促活動です。先に挙げた2つがきちんとできていなければ、いくら販促にお金をかけても無駄ですし、かえって逆効果になってしまいます。土台がしっかりして初めて、効果が出てくるのが販促活動です。
この「6・3・1の原理」はお菓子屋のみならず、どんな商売にも共通するのではないでしょうか。

きのとや会長

長沼昭夫

ながぬま・あきお

昭和22年北海道生まれ。47年北海道大学水産学部卒業後、畜産業に従事。その後サラリーマン生活を経て、58年義父が経営する丸証の一事業部として「洋菓子きのとや」をオープン。60年㈱きのとや設立、社長就任。平成27年会長。令和4年きのとやを中核にグループ6社の持ち株会社である北海道コンフェクトグループを設立し、会長就任。子息の真太郎氏が社長を務める。著書に『[きのとや]の挑戦』(亜璃西社)。