2023年3月号
特集
一心万変に応ず
トップインタビュー
  • 盆栽作家小林國雄

我が人生、死ぬまで修業

1億円の盆栽をつくる男が語った仕事の流儀

日本を代表する盆栽作家・小林國雄氏、74歳。人よりも10年以上遅く28歳の時に独学で修業を始めたにも拘らず、持ち前の貪欲さと素直さで日本盆栽作風展にて最高賞の内閣総理大臣賞に4度も輝き、文化庁長官表彰を受賞した名匠である。何と一鉢1億円の値がつくほどの作品を生み出す。氏の評価は海外でも高く、私財を投じてつくった美術館には年間3万5千人が訪れ、著名人のファンや弟子入り志願者も多いという。しかし、決して順風満帆な歩みを辿ってきたわけではない。一時は自ら命を絶つことを考えるほどの辛酸を嘗めながらも、いかなる心構えで道を切り拓いてきたのか。その波瀾万丈な半生と共に、仕事の流儀に迫った。

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盆栽は天職であり、趣味であり、生きがい

——小林さんが手掛けられた盆栽や美術館を鑑賞させていただきましたが、息をのむほどの造形美と迫力に感嘆しました。

ここしゅんえんBONSAI美術館(東京都江戸川区)は2002年、53歳の時にオープンしました。茶室をしつらえたり屋久杉の一枚板を天井板に張ったり、特に盆栽を飾るとこの間にこだわり抜き、10億円の私財を投じて建築様式の美術館にしたんです。
もちろん一度にそんな大金は用意できないですから、3段階に分けて貯金を全部注ぎ込み、銀行から借金をし、庭園の池は自分たちで40トンの土を掘ってつくりました。800坪の敷地には約1,000鉢の盆栽が並んでいて、一鉢数百万円から数千万円、中には1億円の値がつくものもあります。
盆栽は日本の伝統文化の一つですが、最近では国内よりも海外で注目され、人気を博しているんです。ここにも毎日のように外国人が足を運び、盆栽づくりや茶の湯を体験したり、弟子入りを志願する人も少なくありません。いまでは年間3万5,000人が来館し、約8割が外国人です。Amazonアマゾン創業者のジェフ・ベゾスや女優のキャメロン・ディアスといった著名人も訪れていますよ。
これまでに育ててきた弟子は30か国、125人に及び、現在は日本人の他にポーランド、プエルトリコ、台湾出身の5人の弟子と寝食を共にしています。

——日々どのような生活を送られているのですか?

修業時代から変わらずに、毎日15時間は働いていますよ。この年になって15時間働くのはバカじゃねえかって皆言うけど、好きなんだからしょうがないんですよね。楽しくて仕方ない。全然苦にならない。ストレスもまったまらない。
朝は4時に起きています。冬は寒いから寝床で1時間くらい本を読んでいるかな。読書が好きで寝室や廊下、トイレまで壁一面に本がぎっしりある。それで5時頃に下へ降りてコーヒーを1杯飲んで、数年前から書道をやっているんですが、書を1時間ほど書く。それから外へ出て、一つひとつの盆栽を眺めて対話する。この子ちょっと調子悪いんじゃないかな、この子の1番よいところはどこだろうとか、そういうのを見てやらないと。まあとにかく好きなんですよ。夢の中でも仕事をしています。

——ああ、盆栽の夢を見る。

よく見ますよ。あの枝を切ったほうがいいんじゃないかな、この枝をこっちに持っていったらもっと個性が引き出せるんじゃないかなとか。盆栽のことを思い続けている。もうとにかく盆栽オンリーです。盆栽は私にとって天職であり、趣味であり、生きがいなんですよ。

盆栽作家

小林國雄

こばやし・くにお

昭和23年東京都生まれ。都立農産高等学校園芸科卒業後、家業の園芸農家へ。51年盆栽作家の道を志す。平成元年に日本盆栽作風展で「内閣総理大臣賞」を受賞したことを皮切りに、同賞を4回受賞、皐樹展で「皐樹展大賞」を6回受賞。国風盆栽展において「国風賞」を16回手掛け、200人以上の入選者を育てる。14年春花園BONSAI美術館開館。令和2年文化庁長官表彰。盆栽と水石を飾る作法「景道」の家元三世を4年に継承。最新刊に3部作の集大成となる『盆栽芸術 ―人―』(アジア太平洋観光社)。