2019年4月号
特集
運と徳
  • 鶴見大学教授斎藤一郎

笑う門には福来る

幸運を呼ぶ笑顔の法則

笑う門には福来る――近年、その諺を裏付ける「笑顔」の優れた効能に関する医学的・科学的研究成果が次々と発表されている。笑顔によって「運と徳」を高め、人生や仕事を幸福に導いていくにはどうすればよいのか。〝ストレス社会〟といわれる日本社会の問題点とともに、鶴見大学教授の斎藤一郎氏にお話しいただいた。

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「笑う門には福来る」の諺は真実だった

笑顔になれば心身ともに健康になり、充実した幸せな人生を送ることができる--そう言うと、「笑顔なんて簡単なことで幸せになれるはずがない」と思う方もいるかもしれません。しかし近年、笑顔が人間の心身に与える効能が、医学的・科学的にも世界レベルで次々と実証されているのです。

例えば、fMRI(磁気共鳴機能画像法)という検査機器で、嬉しい、楽しい気持ちを感じて笑っている人の脳を調べたところ、記憶や感情をコントロールする「前頭前野ぜんとうぜんや」の血流が増し、活性化していることが分かりました。しかも、嬉しい、楽しい気持ちを感じていない人に「笑顔の表情」をしてもらうだけでも、前頭前野に同じ反応が見られたのです。

この結果は、たとえ感情が伴わなくとも、表情を笑顔にするだけで幸せを感じたのと同じ反応が脳に起こる、つまり、表情筋と幸福感には密接な関係があることを示しています。

アメリカのカンザス大学が実施したストレスと笑顔に関する実験でも、笑顔がストレスの軽減につながることが立証されています。

この実験では、被験者を「笑っていないグループ」「つくり笑いのグループ」「本当に笑っているグループ」の3つに分類し、ストレスを感じる作業をした後の心拍数を計測しました。すると、つくり笑いと本当に笑っている「笑顔グループ」では、作業中の心拍数が低く、ストレスが少ないことが明らかになったのです。

また、ある修道女たちの日記をもとにした調査研究では、笑顔であること、ポジティブであることが寿命に関係していることが分かりました。

修道院の修道女たちは毎日同じものを食べ、同じ環境で過ごしているにもかかわらず、寿命が長い人と短い人がいる。それはなぜだろうと、彼女たちの日記を解析してみたところ、つらい、不安、困難といったネガティブな言葉の多いグループの人は80歳になった時に約3割しか生存しておらず、楽しい、嬉しい、感謝といった言葉が多いグループの人は約9割が生存していたのです。

そして、笑顔は私たちの日々の生活や仕事にも影響を与えています。

例えば、病院の業務でも、ある職員がお客様に「この薬はこの点に注意してください」と、真面目な顔をして説明したとします。もちろん、それでも業務として問題はないのですが、そこに笑顔をプラスアルファして説明すればお客様の満足度はより上がり、リピート率も向上することでしょう。

日々の生活でも、笑顔は周囲の人たちに「近づきやすい人」「感じのよい人」というよい印象を与える効果があります。逆に笑顔がない人には、周囲が「近づきにくい人」という感情を持つようになるのは言うまでもありません。日頃から笑顔を絶やさない人こそが人生も仕事も充実できるのです。

その他にも、脳の血流が増すことで認知症の予防や改善に繋がる、表情筋が鍛えられることで顔が若返るなど、笑顔にはたくさんの優れた効果が報告されています。

日本には「笑う門には福来る」ということわざがあり、フランスの哲学者・アランも「幸福だから笑うわけではない。むしろ、笑うから幸福なのだと言いたい」との名言を残していますが、まさに近年の笑顔に関する研究は、その言葉を裏づけているといえるでしょう。

鶴見大学教授

斎藤一郎

さいとう・いちろう

昭和29年東京都生まれ。東京医科歯科大学難治疾患研究所などを経て、平成14年より鶴見大学歯学部教授。20年より同大学附属病院長。ドライマウス(口腔乾燥症)を呈する難病・シェーグレン症候群の研究に長年携わる。免疫学、分子生物学の基礎研究とともに、ドライマウス研究会を主宰し、日本抗加齢医学会の理事を務める。『「現代病」ドライマウスを治す』(講談社)『幸せを引き寄せる笑顔の法則』(誠文堂新光社)など著書多数。