2017年7月号
特集
師と弟子
一人称
  • 上智大学教授荻野弘之

哲人・ソクラテスと
その弟子たちに学ぶ

「哲学者の代名詞」として、その名を知らない人はいない古代ギリシアの哲人・ソクラテス。しかしソクラテス自身は一冊の著者も残しておらず、彼の教えは弟子たちによって受け継がれ、現代にまで伝えられてきた。ソクラテスの生涯、そしてその弟子たちとの交流から私たちが学ぶべきことを、上智大学教授の荻野弘之氏に豊富な逸話を交えて語っていただいた。

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「哲学者の代名詞」ソクラテス

〝ソクラテス〟と聞けば、誰もがその名を知っている「哲学者の代名詞」といってよいでしょう。東洋大学の創始者・井上円了は、東京中野区にある哲学堂公園の「四聖堂」に、釈迦・孔子・ドイツの哲学者カントと並んで、ソクラテスを聖人として祀っています。

しかし実際にソクラテスとはどのような人物であり、彼が何を考え、何をしたのか、その真意は何だったのか。また、弟子たちにどのような影響を与えたのかは、意外なほどに知られていません。

ソクラテスについてよく語られる「無知の知」「徳は知なり」といった有名な言葉でさえ、半ば誤解に基づいており、ソクラテス自身が言ったという史料はないのです。そしてソクラテスは、現代のみならず、当時もまた誤解に取り巻かれていました。

私は1976年に東京大学に入学し、教養学部で古代ギリシアの驚くべき世界に触れ、文学部哲学科に進学。以後、30年以上にわたり、数多くの学生たちにソクラテスの哲学について講義をしてきました。哲学教師として、ソクラテスを意識しないわけではありません。しかし、とても模倣の対象にはできない人物です。

本欄では、ソクラテスの生涯とともに、彼の教えを受け継ぎ、後世に伝えたプラトンといった弟子たちとの交流、そしていま私たちがソクラテスから学ぶべきことについて考えてみたいと思います。

上智大学教授

荻野弘之

おぎの・ひろゆき

昭和32年東京都生まれ。東京大学文学部哲学科卒業。同大学院博士課程中退。同大学教養学部助手、東京女子大学専任講師・助教授、上智大学文学部助教授を経て、平成11年より現職。『哲学の原風景』『哲学の饗宴』(ともにNHKライブラリー)など著書多数。