2017年6月号
特集
寧静致知
インタビュー③
  • ソニーコンピュータサイエンス研究所ファウンダー所 眞理雄

閃きの瞬間は、
努力に努力を積み
重ねた先に訪れる

天才・異才が集まるユニークな研究所として知られるソニーコンピュータサイエンス研究所。ファウンダーの所 眞理雄氏は、目先の利益を追求するのではなく、10年後、20年後に花開く研究をモットーとし、経営に打ち込んできた。その歩みはまさに寧静致遠そのものである。

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普通の人はいない

──所さんはソニーコンピュータサイエンス研究所(以下、ソニーCSL)を創立され、これまで数多くの天才・異才を輩出されてきたそうですね。

1988年にソニーCSLを設立して、今年(2017年)で29年になります。当初から「科学技術を通じて人類社会に貢献する。産業に貢献する。巡り巡ってソニーにも貢献する」という理念のもと、一貫して研究に邁進してきました。
現在、研究員はパリにいる5人を含めて30人ほどおりますが、この研究所の特徴といえば、やはり普通の人はいないということでしょうね(笑)。

──普通の人はいない。

例えば、現在ソニーCSL社長を務めている北野宏明は、1999年にソニーが開発したエンターテインメントロボットAIBOの生みの親の一人であり、またシステムバイオロジーという生物学の全く新しい研究分野をゼロから切り拓いたパイオニアです。
メディアでも有名な茂木健一郎も研究員です。脳科学の視点から「クオリア」や「アハ体験」といった脳の働きに関する斬新な考え方を世に広めました。
それから最近では、舩橋真俊という若い研究者が農業に革命を起こそうとしています。「協生農法」といって、農薬も肥料も与えず、耕しもせず、極力人の手を介さずに、多種多様な植物が共生することで生態系を最適化させ、農作物を栽培するものです。この農法は日本だけではなく、既にフランスやドイツ、アフリカなどで実証されています。
あと、後輩が病で足を切断したことを機にロボット研究から義足研究に転向した遠藤謙。彼もまだ若いのですが、速く走ることに特化したスポーツ義足やハイエンド(高性能)のロボット義足、安価な途上国向け義足の3つを同時に手掛けています。昨年(2016年)のリオパラリンピックでは、彼の義足を装着した選手が銅メダルを獲得する成果を挙げました。

──ユニークな研究者ばかり。

普通でないことがお分かりいただけましたか? 本当に変な人たちばかりですよ(笑)。
かく言う私自身も、子供の頃から何かにつけて「なぜ?」「どうして?」「本当なの?」と、納得するまで聞きまくり、周囲の大人たちを困らせていたらしいんです(笑)。常に人と違ったことを考えていましたし、おかしいなと思ったことは気になって仕方がない。
そういう子供だったので、中学校の先生が私に愛情を込めてつけてくださったあだ名は「トコロ・ヘンジン・マリオプス」でした(笑)。その先生のおかげで伸び伸びと個性を発揮することができました。「ヘンジン」は研究者にとって最高の褒め言葉だと思います。

ソニーコンピュータサイエンス研究所ファウンダー

所 眞理雄

ところ・まりお

昭和22年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院工学研究科博士課程修了。工学博士。慶應義塾大学教授を経て、ソニー㈱執行役員上席常務、チーフ・テクノロジー・オフィサー(CTO)を歴任。昭和63年に㈱ソニーコンピュータサイエンス研究所を創設。社長、会長を経て、エグゼクティブアドバイザーに就任し、現在に至る。共著に『研究を売れ!』(丸善プラネット)など。