2017年6月号
特集
寧静致知
インタビュー②
  • 東和病院院長、外科医幕内雅敏

外科医の宿命に
生きる

血管が複雑に入り組み、最も手術が難しいと言われる臓器の一つ、肝臓。幕内雅敏氏はその専門医として30代の頃から革新的な手術方法を次々と編み出し、手術の成功率を上げることで、数多くの肝臓がん患者の命を救ってきた。70歳を超えてなお一道を歩み続ける幕内氏が内に宿す、信念の源泉に迫る。

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祈りと信仰の日々

──幕内先生は今年(2017年)3月末まで院長を務められていた日本赤十字社医療センターにおいて、70歳を超えてなお現役の肝臓外科医として多くの患者さんを救ってこられたとお伺いしています。

4月からは東和病院の院長に就任しましたが、医者としての日常は、いままでどおりやっているだけですよ。
ただ、70歳にもなると多少は体力が落ちてくるから、長い手術は無理をしてやらない。例えば、4、5時間やったら水分を摂って15分くらい横になってからまた始める。そうしないと途中で僕がへばってしまって、患者さんに迷惑を掛けかねないからね。

──最近ではどれくらいの頻度で手術をされていたのですか?

日赤では月・水・金の週3日。東京大学で教授をやっていた頃に、年300例近くやっていたのに比べれば随分減ったけど、院長としての仕事との兼ね合いもあるし、海外で講演を頼まれることも結構多くてね。
この前もトルコに行ってきたけど、3月1日の夜に出掛けて帰ってきたのが4日の夜でしょう。その前後に手術の予定もあるから大変ですよ。いまは体が疲れ過ぎないようにと、手術以外のことで興味を持ってやっていることは何もない。ただ、最近は体力を維持するためにゴルフをしていますけど、そもそも医療以外のことで趣味がある医者なんていうのは、僕にしてみれば本物の医者じゃないと思うけどね。

──それだけご自身のお仕事に徹しておられると。

僕のモットーは365日24時間、医者であれ。これは外科医の宿命です。僕らは患者さんを助けるために仕事をしているのであって、そのために患者さんのことを常に考えるのが当然でしょう。別に宗教に入っているわけじゃないけど、祈りと信仰の日々と言ってもいい。
それに医学の世界は日進月歩ですから、学び続けなければ患者さんを救えません。僕は30年以上にわたって詳細な手術記録を残し、折に触れて見直してきました。学会に参加して新しいことを取り入れ、最新の論文に目をとおすなど常に勉強を怠らなかった。その積み重ねが明日の患者さんを救うことになるんです。

──ではこれからもその思いで、挑戦し続けられると。

どこまで続けられるか分かりませんけど、一緒に働いている若いもんから「先生、もう辞めたら」と言われるまではやるつもりです。体力的な問題はともかく、特に難しい症例の場合、経験というのは非常に重要ですからね。

東和病院院長、外科医

幕内雅敏

まくうち・まさとし

昭和21年東京都生まれ。48年東京大学医学部卒業。国立がんセンター病院、信州大学医学部第一外科教授を経て、平成6年東京大学医学部第二外科教授。19年日本赤十字社医療センター院長就任。29年4月より東和病院院長。東京大学名誉教授。