2017年1月号
特集
青雲の志
インタビュー①
  • 会宝産業会長近藤典彦

利他に
生きることで
魂は磨かれていく

静脈産業のパイオニアの挑戦

年間約1万3,000台の廃棄自動車を処理し、エンジンや部品を甦らせ、世界80か国に輸出している会宝産業。22歳の若さで同社を立ち上げ、金沢の小さな解体屋から静脈産業のパイオニアと称されるグローバル企業へと発展させてきたのが近藤典彦氏である。世界のため、未来の子供たちのため、地球環境の改善に取り組む近藤氏の姿は、まさに青雲の志そのものと言えるだろう。

この記事は約13分でお読みいただけます

静脈産業のパイオニア

──会宝産業は日本で廃棄された中古車を解体し、エンジンや部品を甦らせ、世界80か国に輸出していることから、静脈産業のパイオニアとの異名を取っていますね。

日本では毎年300万~350万台の廃車が出ていますが、我が社はそのうちの約1万3,000台を処理しています。エンジンや部品、座席、タイヤ、希少金属などを回収し、販売しているんです。売り上げの75%が海外を占め、アジア、中東、中南米、アフリカの発展途上国が中心になります。
人間の体に動脈と静脈があって血液が循環しているように、産業にも動脈と静脈の役割があると思うんですね。資本主義経済の中で、メーカーは新しいものをどんどんつくって売ってきた。これが動脈産業です。儲けることは悪いことではないけれども、売りっぱなしになっていて、後始末ができていない。そうすると、地球環境に大きな問題が出てくるんですよ。

──ゴミの問題ですか。

そう。ところが、我われは新しいものを欲しがって、要らなくなったものはゴミと考えているけれども、本当にそうでしょうか。ゴミと言われているものも資源になる可能性があるんですよ。それが我われの仕事です。
私はこれまで先進国も発展途上国も含めて、世界50~60か国を回ってきましたが、各国を見て歩くと、静脈産業があまり確立できていない。だからこそ、再資源化の技術を構築していけば、世界の環境問題に対して一つの助けになるのではないかと思っています。テーマは「競争から協調へ」なんです。

──競争から協調へ。

動脈産業というのは競争社会です。各メーカーが鎬を削ってよりよい製品をつくり上げてきた。一方、静脈産業はそういう競争ではなく、すべてのものを取り込んで処理し、再資源化していかなければなりません。まさに協調することによってよりよい社会をつくり上げていくわけですね。
もっとも、創業時からそんな恰好のいいことを考えていたわけではありません。当初はお金が儲かればいいなと思ってやってきたんですけど、15年前に初孫ができました。まあ、とにかく可愛いんですね(笑)。
そんな中、我われがこのままの生活を続けていった時に、この子たちが豊かな生活を享受できるのだろうか、きっと大変な思いをしながら生きていくことになると。自分の仕事を通じて、地球のために何ができるかを考え抜いた末に、自動車リサイクル事業は世界の環境を変えることができる、世界の役に立てると思ったんです。
そして、そのことに一番貢献できる民族は日本人じゃないかなと私は思っています。

──ああ、日本人が。

なぜかと言うと、一つはやっぱり手先が器用で精緻な処理ができること。もう一つは人を思いやる、利他の精神を持っていることですね。
いま私は69歳ですが、このくらいの年になればゆっくりのんびりしたいなと思うのが普通でしょう。私もそうでした。だけど、このままじゃダメだ、残りの命を人類のために捧げよう、無駄死にするわけにはいかないという思いに突き動かされています。

会宝産業会長

近藤典彦

こんどう・のりひこ

昭和22年石川県生まれ。実践商業高等学校(現・星稜高等学校)卒業後、実家の味噌麹店勤務を経て、東京の自動車解体業で修業を積む。44年郷里に戻り、22歳で有限会社近藤自動車商会を設立。平成4年会宝産業株式会社に改組。使用済み自動車のエンジンや部品などを世界80か国に輸出。27年より現職。自動車リサイクルを通じた環境保全への貢献を目的とする内閣府認証NPO法人RUMアライアンス代表理事も務める。著書に『エコで世界を元気にする!』(PHP研究所)がある。