2020年6月号
特集
鞠躬尽力
インタビュー③
  • 書家赤平泰処

祈りと感動を書に求め続けて

2019年開催された第71回毎日書道展で、最高賞の文部科学大臣賞を受賞するなど、いま最も注目を浴びている書家の一人である赤平泰処氏、74歳。日々弛まぬ精進を積み重ね、書の道一筋に歩んできた赤平氏に、生涯の師である中村素堂氏の珠玉の教えの数々を交え、人々を感動させる書を生み出し、いつまでも成長し続けるヒントを語っていただいた。

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徳を修めて、義を立てる

——2019年7月に行われた第71回毎日書道展で、赤平さんの書「修徳立義しゅうとくりつぎ」が最高賞である文部科学大臣賞を受賞しました。この「修徳立義」には、どのような思いが込められているのですか。

いまの世の中を見ていますとね、「徳を修める」「義を立てる」といった人間として大事なことが欠けているように思うんです。特に若い人の間に、効率的にさっとやれば何でもうまくいくんじゃないかという風潮がどうも強い。
ですから、一つの確固とした人生観、生き方を若い人にも持ってほしいとの思いで、中国古典の『易経えききょう』の中から、できるだけ短くて分かりやすい「修徳立義」という言葉を選んだのです。それに、私は「篆書てんんしょ」という非常に古い書体を扱っていますので、その書体・書風と一致するような、しっかりした意味を持った言葉を選びたいという思いもありました。

2019年7月、第71回毎日書道展にて文部科学大臣賞を受賞した「修徳立義」の書

——徳を修める、義を立てる。確かにいまの日本人が忘れつつある精神かもしれません。赤平さんは小中学校で書を教えるなど、若い世代に書の素晴らしさを伝える取り組みにも尽力されています。

小学校の校長先生から依頼を受けて、子供たちの前で書を書いて見せますと、「こういうふうに書くんだ」と皆喜んでくれますから、非常にありがたいですね。
学校では小学3年生頃から書写の授業がありますが、近年は「墨だと服が汚れる」という声が親御さんから寄せられていることもあり、「水書すいしょ」といって特殊な紙に水で字を書くのが流行はやっているんですよ。書道なのに墨を使わないのです。私の頃と比べて、だいぶ時代が変わってきたなと(笑)。
ただやはり、書道も時代と共に変わっていかなければならない部分はあります。墨を使わない水書も、子供たちが白と黒の書の世界を理解する入り口としてはよいのではないかなと思っています。

——書道は日本の優れた伝統文化ですから、もっと多くの子供たち、日本人に触れてほしいですね。

ええ、いま書道を日本の伝統文化としてユネスコ無形文化遺産に登録しようと頑張っているのですが、なかなか難しいですね。皆さん、「よいことですね」とおっしゃってくださるのですが、何年先になるか(笑)。今後も、ユネスコ登録に向けて力を尽くしていきたいと思います。

書家

赤平泰処

あかひら・たいしょ

昭和21年青森県生まれ。大正大学卒業。師である書家・中村素堂に師事。大正大学名譽教授、毎日書道会監事、東方書道院同人副理事長、浄土宗芸術家協会副理事長、貞香会会長などを務める。毎日書道顕彰(芸術部門)、第71回毎日書道展・文部科学大臣賞など受賞多数。著書に『我が心の書』(大正大学出版会)『書美が際立つ細字表現』(日貿出版社)。