2026年9月号
特集
めざすものを持つ
対談
  • 元サッカー日本女子代表澤 穂希
  • サッカー日本女子代表谷川萌々子

強い思いが
勝利への道を開く

レジェンドへの憧れを力に世界の頂点へ

2011年のFIFA女子ワールドカップドイツ大会で、なでしこジャパンのキャプテンを務め、初優勝の快挙を成し遂げた澤穂希さん。そのレジェンドに憧れてサッカーの道一筋に歩み、いまドイツの一流チームFCバイエルン・ミュンヘンで活躍している谷川萌々子さん。世界を舞台に戦ってきたお二人に、それぞれの歩みを交えて、これまで越えてきた試練、人生の夢・目標を実現していくヒントを語り合っていただいた。

    この記事は約23分でお読みいただけます

    元サッカー日本女子代表

    澤 穂希

    さわ・ほまれ

    昭和53年東京都生まれ。7歳でサッカーを始め、15歳で日本代表に初招集される。ワールドカップ6大会連続出場。平成23年ワールドカップドイツ大会で、キャプテンを務めチームの初優勝に貢献し、大会MVPと得点王に輝く。同年「FIFA 女子年間最優秀選手」を受賞。4度目の出場となったロンドン五輪で銀メダルを獲得。日本代表での通算205試合出場と83得点は、男女合わせて歴代トップ。27年12月に現役を引退。著書に『夢をかなえる。思いを実現させるための64のアプローチ』(徳間書店)『負けない自分になるための32のリーダーの習慣』(幻冬舎)など多数。

    サッカー日本女子代表

    谷川萌々子

    たにかわ・ももこ

    平成17年愛知県生まれ。3歳の時にサッカーを始める。小学校時代は名古屋FCレディース、グランパスみよしでプレー。平成30年、JFAアカデミー福島女子のセレクションに合格し、中学進学と同時に入校。令和4年FIFA U︲17女子ワールドカップに日本代表として出場。翌年日本代表に初招集される。6年FCバイエルン・ミュンヘンに加入、スウェーデンのFCローゼンゴードに期限付き移籍し得点王の活躍。同年、パリオリンピック出場。2025年シーズンよりバイエルンでプレー。

    本対談は、ドイツの女子プロサッカーチーム、FCバイエルン・ミュンヘンでプレーする谷川萌々子さんの一時帰国に合わせ、都内ホテルにて行われた。

    世界一に輝いた澤さんに憧れて

    谷川 2011年、なでしこジャパンがFIFA女子ワールドカップで世界一に輝いた時、私はまだ6歳でしたけれども、その様子をテレビで見て以来、「自分も澤さんのような選手になりたい」とずっと尊敬し、あこがれてきたんです。
    もちろんキャプテンとしてチームを引っ張っていく姿も格好よかったのですが、何よりアメリカとの決勝戦でコーナーキックから澤さんが決めた同点弾は、いまでも心に残っていて忘れられません。
    ですから、きょうは尊敬する澤さんと、こうしてお会いすることができて、すごく嬉しいです。

     こちらこそ、そう言っていただけて本当に光栄です。最近のなでしこジャパンの試合を見ていても、谷川さんが出場すると流れがガラッと変わるというか、持ち前のフィジカル、卓越したテクニックも含めて、いまの日本、なでしこジャパンのメンバーにはいないタイプの選手だなと思います。
    何より谷川さんの魅力は、大事な場面で試合を決定づけられる得点力ですよ。ここぞという場面でしっかり得点できる選手がいることは、やっぱりチーム全体にすごく大きな影響を与えます。それに体を張った守備、ボールの奪取能力、相手選手を2度追い3度追いできるフィジカルの強さは、いまのなでしこジャパンのメンバーの中でも一番なんじゃないかな。

    谷川 ありがとうございます。
    普段はロングシュートだったり、攻撃面を評価されることはあっても、守備について触れられることはほとんどないんです。澤さんが初めてかもしれません。守備は海外のチーム(ドイツのバイエルン・ミュンヘン)でプレーするようになって、より意識して取り組んできたことですから、澤さんの言葉はすごく励みになります。
    いまはドイツから日本に戻って一度休みを取り、また来シーズンに向けてトレーニングを再開している状況です。個人的にも相手選手からボールを奪い切る力だったり、守備やフィジカルの部分をもっと強化して、そこから攻撃の起点になっていく動きをもっと増やしていきたいと思っています。

     佐々木則夫さん(2008~2016年、サッカー日本女子代表監督)ともいろいろ話をするのですが、「いまのなでしこジャパンのメンバーは、澤たちの頃より全然うまい」っておっしゃるんです(笑)。私も本当にその通りだと思います。実際、谷川さんがドイツのトップチームでプレーしているように、私の時代と比べて海外に出ていく日本人選手が増えてきて、世界大会の舞台でもおくすることなくプレーできる選手が多くなっているなと感じます。
    谷川さんには、ぜひなでしこジャパンを引っ張っていく中心選手として、これからもっと活躍していただきたいと思っています。

    自分の進むべき道は自分の意志で決める

     先ほど6歳の時に女子ワールドカップを見たとおっしゃっていましたけれども、もともと谷川さんがサッカーを始めたのは、どんなきっかけだったのですか。

    谷川 サッカーを始めたきっかけは3歳の時、通っていた名古屋市の徳重幼稚園でサッカー教室のチラシをもらったことでした。最初は軽い気持ちだったと思いますが、ボールに足で触れたり、ゴールを決めたりするのがすごく楽しくて、すぐに自分から「サッカーがやりたい」と両親に伝えたんです。
    周りは男の子ばかりでしたけれども、私が自分でやりたいと言ったことに関しては、両親はすごく応援してくれて、どんどんサッカーにのめり込んでいきました。両親には本当に感謝しています。
    その中で6歳の時になでしこジャパンが優勝する姿をテレビで見て、将来はサッカー選手になるという夢が明確になったんです。

     6歳で明確な夢を持つというのは、素晴らしいですね。ちなみに他のスポーツをやりたいと思ったことはなかったのですか。

    谷川 それはなかったです。サッカー一途という感じでした。お正月に親戚が集まった時も、年上のお兄さんたちと近所の公園でずっとサッカーをやっていました。
    その後、小学3年生から6年生まで名古屋のグランパスみよしという男子のチームでプレーしました。ただ、もっとうまくなりたいという思いが強くなり、中学1年から親元を離れて全寮制のJFAアカデミー福島(日本サッカー協会が運営するサッカー選手の養成学校)に入ったんです。これも自分の意志で決めました。

     中学1年生で親元を離れるのは寂しくなかったですか?

    谷川 最初の頃は寂しかったです。でも、それよりサッカーがうまくなりたい、ここで頑張れば目標に近づけるという気持ちが上回っていました。実際、JFAアカデミーで学んだことが、心の面でも技術の面でも、いまの私の基礎をつくってくれたと思っています。
    尊敬を込めて「山さん」と呼んでいるんですけれども、当時の山口隆文監督からは、特にメンタルの部分においてコツコツ努力を積み上げていく、小さなことも決しておろそかにしない「凡事徹底」の大切さを教えていただきました。
    例えば、パス一本にしても、その場その場でどうすれば一番よいのか、細かいところまで指導されました。細かいところを疎かにしない、それが大事な場面でシュートやパスを決められるかどうかに関係してきますから、凡事徹底はいまも大切にしている教えです。
    また、コーチのしおしょうさんには、キックやパスなど技術の基礎をたくさん教えていただきました。見汐さんは、練習の度に「それじゃあ、澤さんになれないぞ」とはっをかけるんですね。これが私の心に火をつけて、ますますサッカーに打ち込んでいったんです。

     よき指導者、環境に恵まれて実力をつけていったのですね。

    谷川 JFAアカデミーでは、朝は6時頃に起床して、清掃や朝食を済ませ、バスで学校に行って勉強し、終わればバスに乗って寮に戻り、あとはひたすらサッカーの練習やトレーニングという環境でした。周りも将来はサッカー選手になって、なでしこジャパンに入るという目標を持った選手が集まっていましたから、とにかくサッカーに集中できる、お互いにせったくできる環境の中で、本当にいろいろなことを学ぶことができました。JFAアカデミーではない道を選んでいたら、きっと世間の誘惑に負けて遊んでしまい、いまの自分はなかったと思います。

     逆に私は現役時代に合宿などに行くと、サッカー以外にやることがなくて、オフの時間が欲しいなと思っていました。JFAアカデミーに入っていたら、耐えられなかったかもしれない(笑)。
    ですから、JFAアカデミーで谷川さんがやりきれたのは、よほど明確な目標と夢、強い信念があったからこそだと思います。人生において、目標、夢を持つというのは本当に大事なことですね。

    世界の舞台で活躍することを目標に、夢中でサッカーにのめり込んだ幼少期の谷川さん