連載 生涯現役
生涯現役
  • 作曲家渡辺宙明
90歳

道は自らひらく

特撮音楽の巨匠と呼ばれ、アニメ作品も数多く手掛けてきた作曲家・渡辺宙明氏、90歳。映画音楽家からアニメ特撮の作曲家へと転身を果たし、その弛まぬ努力で息の長い活動を続けてこられた歩みを伺った。

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好きな仕事だからこそ

──昨年(2015年)の8月30日に「渡辺宙明卆寿記念コンサート」を都内で開かれたそうですね。

これはね、そもそも私が長生きしたということが一つのきっかけになりました。もし85歳で亡くなっていたら、こんなことはなかったわけで、やはり長生きはするもんだなぁと。
それにアニメや特撮音楽のコンサートというのは、主題歌が中心のものはしょっちゅう開かれていますけど、BGMだけのコンサートというのはなかなかないですよ。しかも、オーケストラの大編成でやろうというので企画してくれたのも非常に嬉しかったですね。
もちろん、私自身もプロとして力を込めて作曲してきたわけだから、聞いていただいて恥ずかしくないというか、皆さんに楽しんでいただけるような音楽もたくさんつくってきました。しかも結果的にこれが大変な評判で、会場には子供の頃にアニメ特撮を観ていた40から50代の層を中心にたくさんのお客さんが入ったんです。

──どのくらいの方が集まられたのですか。

コンサート当日は700名入る会場で昼夜2回やっちゃったんです。普通はあり得ないですよ、歌がなくてBGMだけでしょう。
ですからこうしたコンサートが成り立ったことを思うと、努力すれば人間は報われるんだなという気持ちになりましたね。

──努力が報われたと。

BGMですから短くてまとまったものにならない場合もありますけど、長い曲はそれだけ聴いても鑑賞に堪えられて、しかも場面に合うものとなると、とても難しい作業なんです。しかもアニメ特撮の場合なんか、予算が少なくて1年分のものをいっぺんに録るものだから大変です。短時間に多くの曲を作曲するのですから、作業的に厳しいものになります。
ある時なんか「大戦隊ゴーグルファイブ」「宇宙刑事ギャバン」の主題歌とBGMの両方を同時期にやることになってね。そのようなこともあってBGMの作曲はやめたいと思うこともありました。とても無理だからと映画会社のプロデューサーに、BGMはやめにして主題歌だけにさせてくれないかとお願いしたことがあるんです。
いま考えると、とんでもない物言いだったんですけど、その人はこう言いました。
「何を言うんだ。あなたはBGMがいいから頼んでいる。主題歌だけだったら他の作曲家でもできるんだ」と。そう言われてはこちらもやるしかないじゃないですか。ですから、どんな状況でも努力だけは惜しみませんでした。

──これまでに何曲くらいつくられたのですか。

歌だけで約400曲あって、そのうちアニメ特撮の主題歌が300曲。歌専門の人に比べれば少ないでしょうね。BGMは一つの作品の中に、例えば一つのテーマをアレンジしたものも含めて仮に30曲くらいあるとして、もう何千曲とつくってきました。
主題歌だけであればいいメロディーを一曲だけつくることに絞れますけど、BGMも含めて限られた時間の中で一気につくるとなると、その緊張感たるやかなりのものがあります。でも好きな仕事ですからね。好きなことっていうのは、どんなに辛くてもやっていけるんですよ。

作曲家

渡辺宙明

わたなべ・ちゅうめい

大正14年愛知県生まれ。東京大学文学部哲学科(心理学専攻)卒業。昭和28年中部日本放送(CBC)のラジオドラマ「アトムボーイ」の音楽でデビュー。新東宝、大映、日活などで100本以上の映画音楽を手掛ける。47年「人造人間キカイダー」「マジンガーZ」との出合いから、特撮ヒーローやアニメ作品が作曲生活の中心となり現在に至る。平成27年卆寿記念に特撮アニメ主題歌を収録した4枚組CDボックスをリリース。「渡辺宙明卆寿記念コンサート」も開催。