2022年5月号
特集
挑戦と創造
対談
  • HAJIMEオーナーシェフ(左)米田 肇
  • カンテサンスオーナーシェフ(右)岸田周三

ミシュラン三ツ星に
選ばれ続ける店は
どこが違うのか

世界各国の飲食店や宿泊施設を選りすぐり格付けする『ミシュランガイド』で、最高峰の三ツ星を長年にわたって獲得し続けている名店がある。大阪のガストロノミーレストラン「HAJIME」と、東京のフレンチレストラン「カンテサンス」。東西の三ツ星店をそれぞれ切り盛りするオーナーシェフの米田 肇氏と岸田周三氏の歩みはまさに挑戦と創造の連続だった。お二人が語り合う一流プロの仕事の流儀に学ぶものは多い。

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本対談は2022年3月14日、東京の品川御殿山にあるフレンチレストラン「カンテサンス」にて行われた。

二人の三ツ星シェフ15年前の邂逅

米田 岸田さんのお店には前から行きたいと思っていたので、ようやく念願が叶って嬉しいです。

岸田 あれ、初めてでしたっけ?

米田 そうなんですよ。僕が東京に出張する時は、いつも定休日でタイミングが合わなくて。

岸田 ここに移転して9年になりますから、前のお店に来てくれていたんでしたね。

米田 初めて白金台のカンテサンスに食べに行ったのは、独立する少し前、2007年11月だったと思います。ちょうどミシュラン三ツ星を獲られた後でした。

岸田 ミシュランで話題になって知ってくれたんですか?

米田 いや、実はフランスにいた時に、アストランスに何回か食べに行っていて、そのアストランスで修業された日本人の方がお店を出したと聞き、行ってみたいなと思っていたんですよ。
2008年に独立してからも、スタッフを連れて数回食べに行きました。当時まだ大阪にはミシュランがなくて、大阪にミシュランを呼んできたい、三ツ星の店にしたいと必死でしたから、カンテサンスをはじめ、東京の三ツ星店に何とか追いつこう、追いつこうと研究していたんです。

岸田 はじめさんのお店はオープンして間もない頃からすごく話題になっていましたよ。早速スタッフに予約を取ってもらって、一緒に食べに行きました。とても革新的な料理で、別の世界から料理人に転身して成功される方っていうのはすごいなと思いましたね。

米田 あの時は、ちょうど前日にカンテサンスを引き合いに出してサービスも料理もいろいろ改善しないといけないって話をスタッフにしていたんです。そうしたら、翌日のランチ営業時にサービスの子が厨房にバーッと入ってきて、「カンテ、カンテ……」って言うから何かと思ったら、「カンテサンスのシェフが玄関に」って(笑)。
こっちはまだお客さんが入り始めてちょっと知名度が上がってきたくらいの時だったので、超有名シェフが食べに来てくれたことには驚きましたし、もっと頑張ろうとすごく気合が入りました。

HAJIMEオーナーシェフ

米田 肇

よねだ・はじめ

昭和47年大阪府生まれ。近畿大学理工学部卒業後、東証一部上場の総合部品メーカー勤務を経て、26歳で料理の道へ。辻フランス料理専門カレッジ(現・エコール辻大阪)卒業後、大阪と神戸のフランス料理店で働き、平成14年渡仏。帰国後、「ミシェル・ブラス」の支店での修業を経て、20年35歳で大阪に「HAJIME」を開業。1年5か月後に世界最短でミシュラン三ツ星を獲得。25年「アジアのベストレストラン50」に選出されるなど、世界的な評価を得ている。

料理への情熱は本物か 2年間で600万円を貯金

岸田 僕らの業界は狭い世界ですから顔を合わす機会はあっても、こうして面と向かって語り合うことはないので新鮮な感じがします。肇さんはもともとエンジニアだったそうですが、どういうきっかけで料理人になったんですか?

米田 小学校2年生の時に、ある日本人シェフの密着番組をテレビでやっていて、日本からイタリアへ渡ってフランスに行き、ニューヨークの一流店にヘッドハンティングされ、大統領に表彰されるというサクセスストーリーを見て、格好かっこういいなと思ったんです。
以来ずっと料理人にあこがれ、5年生の時の作文に「将来の夢は一流の料理人になること」と書きました。進学のたびに料理学校に行きたいと言うんですけど、両親は許可してくれない。高校卒業の際も、「大学に行くなら応援する。専門学校なら自分でお金を貯めて行きなさい」と。資料請求すると200万円以上かかる。これは無理だと思い、大学に通って卒業後はサラリーマンになりました。
ただ、入社後すぐ何か違うなと違和感を覚え、料理がしたいという気持ちが湧き上がってきました。それでもある程度仕事ができるようになるまでは続けよう。料理への情熱が本物かどうか自分を試す意味で、専門学校の学費の3倍である600万円を貯金したら進路を考えようと決めました。
3倍に設定したのは、学費以外にも交通費や生活費を含めると、それくらいはかかると思ったからです。結局、2年間で600万円を貯めることができました。

岸田 20代前半の時に、たった2年で600万円も? すごい!

米田 残業が多くて給料は高く、会社の寮に入っていて出費も少なかったことに加えて、1日200~300円しか使わないという節約生活を徹底していましたね。近くの漁港で安く買える魚を毎週食べ、トイレを使うのも顔を洗うのも会社に行って済ませる(笑)。

岸田 僕もそういうストイックな面がありますけど、そこまでやってなかったなぁ(笑)。

米田 世界一の料理人になりたいと言って両親の反対を押し切り、会社を辞めて辻フランス料理専門カレッジ(現・エコール辻大阪)に入りました。26歳の時です。

カンテサンスオーナーシェフ

岸田周三

きしだ・しゅうぞう

昭和49年愛知県生まれ。高校卒業後、料理の道に進む。名古屋調理師専門学校卒業後、三重県の志摩観光ホテルや東京のフランス料理店に勤務し、平成12年渡仏。「アストランス」をはじめ複数のレストランでの修業を経て、18年東京の白金台に開業した「カンテサンス」のシェフとなる。19年史上最年少(当時)の33歳でミシュラン三ツ星を獲得。以来、現在まで15年連続で三ツ星に選出。23年よりオーナーシェフ。25年店舗を東京の品川御殿山に移転した。