2022年8月号
特集
覚悟を決める
インタビュー②
  • タニタ社長谷田千里

「人生万事因己」
経営者である私の信条

世界初の体脂肪計を開発・販売し、体組成計則のパイオニアとして業界を牽引してきたタニタ。創業家の3代目社長を務める谷田千里氏は、「タニタ食堂」「タニタ健康プログラム」をはじめ多面的な事業展開を通して、健康を「はかる」企業から「つくる」企業へと変革を促してきた。そんな氏が抱く覚悟とは——。

この記事は約11分でお読みいただけます

「はかる」から「つくる」へのシフト

——たに社長は「タニタ食堂」をはじめ様々な取り組みによってタニタの事業を拡大されてきました。実は、お父様である前社長・谷田大輔さんにも『致知』2000年8月号にご登場いただいていました。

そうでしたか。あ、当時の記事のタイトルが「じんせいばんおのれがもと」なんですね! 偶然ですけど、私もこの言葉を創業者である祖父の考えとして心に留めていました。2008年に社長に就任し、その後、行動指針を定める際には、いの一番に「人生万事因己」を掲げました。父から直接この言葉を聞いた記憶はありませんでしたが、それと意識せずに刷り込まれていたのかもしれません。
この言葉もそうですし、谷田家には何かDNAとして受け継がれているものがあるのではないかと感じた出来事が他にもありました。
以前、私が整理整頓の再徹底を行った際に会社の奥から祖父が使っていた机が発見されたのですが、それを見ると、引き出しに内蔵されている鍵の上からさらに南京錠で二重ロックされていたんです。1つで安心せず、2段構えをしていたんですね。父も「二の手、三の手」とよく口にし、何をするにも次作、次々作を考えろと言っていましたし、私の座右の銘も「一粒で二、三度おいしい」なんです。
この言葉には、常にサブプランを持っておくという意味に加えて、1つの行動で意図的に2つ3つの成果を出せるよう工夫するとの思いも込めています。祖父と経営について話したことはありませんでしたが、こんなふうに想いは伝承されていくのだと感じました。

——3代目である谷田社長の代で、タニタは健康を「はかる」企業から「つくる」企業へと変革されていると伺いました。

弊社は健康計測機器メーカーとして様々な世界初の技術力で業界をリードしてきました。しかしご存じのように、「タニタ食堂」で栄養バランスの取れた食事を提供したり、「タニタ健康プログラム」といってIoT対応(家電や照明などの機器がインターネットにつながること)の計測機器を用いた健康づくりパッケージも売り出したりするなど、徐々にモノからコトへとシフトしています。
その経緯を順序立ててお話しすると、私はネガティブから入る人間なので、2008年に社長に就任した際、「どういう形で次の社長にバトンをパスしたら自分は合格点をもらえるか」と考えました。会社を潰すのが不合格で、一番いいのが売上も利益も共に上げること。ですが高齢化や人口減少が加速する日本では税率が上がる可能性が高いと予測したので、かなり業績を伸ばさなければ及第点に届かない。ではそもそもなぜ税率が上がるのか。それは国の社会保障費が増えるからですが、よく考えれば弊社は医療費の適正化に寄与できる製品をつくっています。
将来、自分の子供に「お金を稼ぐために働いた」ではなく、「日本の医療費の適正化のために働いた」と誇りたいですし、そのほうが社員の士気も上がるだろう。そう考えて日本人の健康を「つくる」と打ち出すようになりました。

——〝日本のため〟という大局的な視点を持たれていたのですね。

ただ、ここがポイントですが、スタートはすべて自分の都合です。社長としてどんな仕事をすればいいか、現場で働きながら考え尽くした先に思い至ったのがこの考えでした。

タニタ社長

谷田千里

たにだ・せんり

昭和47年大阪府吹田市生まれ。平成9年佐賀大学理工学部卒。船井総合研究所などを経て13年タニタ入社。17年タニタアメリカ取締役。20年5月から現職。著書に『タニタの働き方革命』(日本経済新聞出版)がある。