2017年11月号
特集
一剣を持して起つ
インタビュー②
  • かものはしプロジェクト共同代表村田早耶香

普通の人間が
世界を変える

女性社会起業家の児童買春かいしゅん撲滅への挑戦

幼い子どもたちが騙されて売られ、心身に一生消えない傷を負う──。この児童買春から子どもたちを守るために若干19歳で立ち上がったのが村田早耶香さんである。途上国で被害者の少女と出会って抱いた、「何とかしたい!」という一念を胸に、幾多の困難逆境に挫けることなく、関係団体と協力し10年でカンボジア内の被害の撲滅に尽力した。その快挙を支えたものとは何か、語っていただいた。

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その少女の命は1万円!?

——途上国で蔓延する児童買春の撲滅のため、大学生の頃から20年近く活動されてきたそうですね。

はい。私たち「かものはしプロジェクト」では、現在カンボジアを拠点に子どもを売らせないための貧困層支援と、子どもを買わせないために犯罪を摘発できる仕組みづくりに注力しています。また、近年はインドにも活動を広げ、総勢60名で活動しています。活動資金の大半を寄付に頼っているんですけど、おかげさまで約5,000名ものサポーター会員が月々の支援を継続してくださっています。
この活動を始めたきっかけは一人の少女を知ったことでした。2001年6月、大学2年生の時です。ある授業で新聞記事が配られ、ミーチャという女の子の話が出てきたんです。お父さんは体が悪く、お母さんは病気で亡くなっていて、長女であるミーチャしか働き手がいなかったため12歳で出稼ぎに行ったところ、騙されて売春宿に売られてしまったそうです。
逃げ出せないまま強制的に働かされて、結局HIVに感染してエイズを発症してしまい、20歳で亡くなりました。彼女が最後に言ったのが「学校っていうところに行って、勉強っていうものをしてみたかった」という言葉だったといいます。
同じ時代に生きているのに、生まれた場所が違っただけで、自分と同世代の女の子が1回も学校に行けずに亡くなった。一方の私は、高い学費を払って嫌々勉強している。この違いは何なんだろう。その時に受けた衝撃は忘れることができません。

——1本の新聞記事が人生の転機になったのですね。

「こんな酷いことが本当にあるのか」と思って調べてみると、この問題は子どもの心身を最も傷つける、児童労働の中でも最悪の形態だと言われていることが分かりました。被害は表に出にくく正確な人数の把握が難しいんですけど、毎年18歳未満の被害者が世界で百80万人ほど出ています。
主な加害者は外国人観光客で、自分の国では子どもが買えないため法律の規制が緩い発展途上国に来て、子どもを性的に虐待し、自国で写真とかビデオを売っている。最近は減ってきましたが、加害者の中には日本人も多く含まれていたことを知り、愕然としました。
実際に現場を見ようと思って、大学の夏休みに東南アジアに行ったんですけど、資料にあった話は誇張でも何でもなかったんです。

——詳しくお聞かせください。

カンボジアの被害者保護施設で、ある6歳の女の子に出会いました。まさかそんな幼い子までいるとは思わなかったですし、その施設で保護されている女の子たちは体を売らせるために日常的に虐待を受けていたというのです。
それが殴る蹴るだけではなくて、電気ショックを与えられたり、麻薬漬けにされて、たとえ逃げても麻薬が切れたら戻ってこざるを得ない精神状態にしてしまったり。あとは、脱走した少女を見せしめのために他の子どもたちの前で殺したり……。そんな悲惨で理不尽なことがまかり通っている現実を目の当たりにし、ものすごく憤りを感じて、許せませんでした。

——……。

そこで出会った6歳の女の子はとても懐いてくれて、私が施設から帰る時には泣きながら別れを惜しんでくれました。
何でこんないい子が施設に来なければいけないのか。カウンセラーの人に聞いたら、貧しい家庭に生まれ、親に100ドルと引き替えに売られてしまったらしいんです。
1万円だったら私でも出せる金額なのに、それで人一人の人生が踏みにじられている。そう感じた時に、こうした悲惨な現状を絶対に何とかしたいと心に決めました。

かものはしプロジェクト共同代表

村田早耶香

むらた・さやか

昭和56年東京都生まれ。平成14年かものはしプロジェクトを立ち上げる。16年フェリス女学院大学国際交流学部卒業後、同プロジェクトをNPO法人化。17年日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2006」リーダーシップ部門など受賞歴多数。26年認定NPO法人に。著書に「いくつもの壁にぶつかりながら」(PHP研究所)がある。