一大事とは今日只今の心なり。江戸期の禅僧・正受老人の言葉である。とかく過去や未来に目を奪われ、大切な足元を疎かにしてしまいがちな我われ凡夫への尊い戒めといえよう。この名句と同様に、作家として、尼僧として、それぞれの立場から人々に多くの示唆を与えてきたのが五木寛之氏と青山俊董氏である。共に90代の坂に差しかかったお二人は、人生の大事をどう捉え、いまをどう生きているのだろうか。
作家
五木寛之
いつき・ひろゆき
昭和7年福岡県生まれ。生後まもなく朝鮮に渡り、22年に引き揚げる。27年早稲田大学露文科入学。32年中退後、PR誌編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、41年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、42年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、51年『青春の門・筑豊篇』ほかで吉川英治文学賞を受賞。また英文版『TARIKI』は平成13年度『BOOK OF THE YEAR』(スピリチュアル部門)に選ばれた。14年菊池寛賞を受賞。22年に刊行された『親鸞』で毎日出版文化賞を受賞。日本藝術院会員。
愛知専門尼僧堂堂頭
青山俊董
あおやま・しゅんどう
昭和8年愛知県生まれ。5歳の時、長野県の曹洞宗無量寺に入門。駒澤大学仏教学部卒業、同大学院修了。51年より愛知専門尼僧堂堂頭。参禅指導、講演、執筆のほか、茶道、華道の教授としても禅の普及に努めている。平成16年女性では2人目の仏教伝道功労賞を受賞。21年曹洞宗の僧階「大教師」に尼僧として初めて就任。令和4年大本山総持寺の西堂に就任。著書に『道はるかなりとも』(佼成出版社)『一度きりの人生だから』(海竜社)『泥があるから、花は咲く』(幻冬舎)『さずかりの人生』(自由国民社)『あなたに贈る人生の道しるべ』(春秋社)など多数。