2026年8月号
特集
時務を識る者は
俊傑に在り
トップインタビュー
  • 京都大学大学院医学研究科皮膚科学教授椛島健治

かくして
日本発の新薬は
誕生した

アトピー性皮膚炎治療薬の
研究開発に懸けた執念と創意

日本発の2種類の画期的な新薬がアトピー性皮膚炎に苦しむ世界中の人々を救っている──。従来のステロイド性治療薬には副作用があり、数多くの研究者たちが創薬を試みるも、悉く失敗する冬の時代が長く続いたという。そんな困難な研究開発に並々ならぬ執念と創意を注いできたのが、京都大学大学院医学研究科皮膚科学教授・椛島健治氏、56歳。世界に先駆けて金字塔を打ち立てることができたのはなぜか。これまでの道のりを辿りつつ、その原点や転機、思考と行動の習慣、独創的なアイデアを生み出す秘訣、自身を突き動かす使命感に迫った。

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    京都大学大学院医学研究科皮膚科学教授

    椛島健治

    かばしま・けんじ

    昭和45年岐阜県生まれ、北九州育ち。平成8年京都大学医学部卒業。医学博士。横須賀米海軍病院、京都大学、ワシントン大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、産業医科大学などでの勤務を経て、27年京都大学大学院医学研究科皮膚科学教授。シンガポールA*Starシニア主任研究員(兼任)。日本皮膚科学会賞、免疫学会賞、日本学術振興会賞、文部科学大臣表彰などを受賞。近著に『人体最強の臓器 皮膚のふしぎ』(講談社)。

    皮膚医学の謎をすべて解明したい一心で

    ──椛島かばしまさんはアトピー性皮膚ひふ炎に関する画期的な治療薬を開発されたそうですね。

    アトピー性皮膚炎の患者さんは日本に数百万人、世界全体では2億3,000万人以上いるとされ、それだけ数多くの方が苦しい生活をいられています。その治療薬の開発は簡単な道のりではなく、長い間、創薬の試みがことごとく失敗する冬の時代が続きました。そういう状況の中で、幸運にも2つの新薬の開発に携わることができたのは研究者みょうに尽きます。
    2020年1月に、炎症を引き起こす物質の働きを直接ブロックし、かゆみや赤みを改善する非ステロイド性の塗り薬「デルゴシチニブ(コレクチムなんこう)」を、2022年8月に、ステロイド外用薬や抗アレルギー薬など既存の薬では十分な効果が得られなかった重度の痒みを抑える注射薬「ネモリズマブ(ミチーガ)」を、それぞれ世に送り出すことができました。
    もちろん、これらの薬剤は製薬企業の研究開発チームや多くの共同研究者、臨床試験にご協力いただいた先生方・患者さんのご尽力によって実用化に至ったもので、僕はその基礎研究や開発の一部に関わらせていただきました。
    アレルギーに限らず皮膚の病は治らないものが結構多いんです。じんしんやアトピーは薬である程度コントロールできますけど、薬をやめたら元に戻ってしまう。対症療法ではなく、薬をやめても痒みが出ない状態に保ち、QOL(生活の質)を向上させる根本的な治療をどうやって確立するか。いまはそこを目指し、新しいメカニズムの仮説を立てて検証するということを日々繰り返しています。

    ──根本的な治療を目指して研究にまいしんされている。

    皮膚医学の世界はいまだに解明されていない謎が非常に多く、言ってみれば、我々皮膚医学の基礎研究者は開拓者というか、大航海時代に未知の巨大大陸を求めた探検家のようだと思っています。
    僕は皮膚の中で起こっていることをすべて理解したい。皮膚の中を丸裸にすることで、様々な病を治したい。その思いで、一所懸命研究に励んでいるところです。