2026年8月号
特集
時務を識る者は
俊傑に在り
対談
  • 国家基本問題研究所理事長櫻井よしこ
  • 外交評論家山上信吾

いま
日本の進むべき道

早くも折り返し地点に差し掛かった2026年。世界では年初から各地で戦火が立ち上り、緊張の度は高まる一方である。我が国はこの危機の時代をいかに歩んでいくべきであろうか。片やジャーナリストとして、片や外交官として、世界の現実をつぶさに見てきた櫻井よしこ氏と山上信吾氏が読み解く、日本の進むべき道とは──。

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    国家基本問題研究所理事長

    櫻井よしこ

    さくらい・よしこ

    ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業後、「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局勤務。日本テレビニュースキャスターなどを経て、現在はフリージャーナリスト。平成19年に国家基本問題研究所を設立し、理事長に就任。23年正論大賞受賞。24年インターネット配信の「言論テレビ」創設、若い世代への情報発信に取り組む。著書多数。新刊に『親中派80年の嘘』(産経新聞出版)。

    外交評論家

    山上信吾

    やまがみ・しんご

    昭和36年東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、59年外務省入省。40年間の外交官生活の中で、ワシントン、香港、ジュネーブ、ロンドン、キャンベラで在外勤務。北米第二課長、条約課長、警察庁出向を経て、日本国際問題研究所所長代行等を歴任。平成29年国際情報統括官、30年経済局長。令和2年駐豪日本大使。5年末に退官し、外交評論家として活動。著書に『日本外交の劣化』(文藝春秋)『高市外交の正念場』(徳間書店)など。

    時代は音を立てて変わりつつある

    山上 私の父はもともと軍人の卵で、陸軍幼年学校・士官学校まで行き、戦後は高校教師をしていましたが、その父がずっと愛読していたのが『致知』でしてね。

    櫻井 さすが山上さんのお父様ですね。

    山上 きょうはその『致知』で櫻井先生との対談の機会をいただいて大変嬉しく光栄に思います。

    櫻井 私もとても楽しみにしていました。山上さんはオーストラリア大使としてご活躍なさった後、外務省を退官なさいましたが、いまも精力的に活動されていますね。

    山上 時代が音を立てて変わりつつあることを痛感していましてね。まさにきょうのテーマである「時務を識る者は俊傑に在り」を意識して、日本もこの状況にいかに対応すべきかを真剣に考えなければならない時に来ているのに、国からもマスコミからも適切な問題提起が為されているとは思えません。私はこのことに強い危機感を抱いて評論活動を始めたんです。

    櫻井 私も気懸かりなことがたくさんあります。こういう時に国の基盤が揺らぐようなことがあってはならないのに、例えばこの度のこうしつてんぱん改正案について、我が国が2,000年以上守り続けてきた男系継承の伝統を否定する主張を繰り返している新聞があります。
    皇室典範の改正は日本のもといに関わることなので、よほどしっかり歴史を学び、我が国のくにがらを十分理解した上で論ずる責任があると思うんです。けれどもこういう主張を見ると、メディアとして的確な状況把握ができているとは思えません。もっと言えば、国民を一定の方向へ向かわせるための政治宣伝のようですね。

    山上 「反戦平和護憲」にとらわれてきた戦後の日本を象徴していると思いますよ。

    櫻井 そして大手新聞はしばしば日本の戦争責任を問うでしょう。けれども戦前は、戦争をあおることで部数を増やしてきたんですよ。そういうことを顧みないままに今日まで来ていると私は思います。

    山上 SNSが台頭してきたいまは、〝オールドメディア〟とされていますが、私はそこには、記者ではない活動家と、社論にあらがう気力もないサラリーマン記者しかいないと思っています。その活動家の中には、反戦、平和、護憲に取りかれた戦後知識人を気取ったような人間もいれば、日本の国益と相反する特定の国が喜ぶような主張を繰り返す反日勢力もいます。これは私だけが言っているのではなく、友好国の情報機関の人間は、皆そういう目で日本のメディアを見ていますよ。
    けれども幸いなことに、SNSがこのオールドメディアのじゅばくから国民を放ちつつあります。私はいま同志社大学で国際関係論を教えていますが、200人いるクラスの学生の中でも、新聞を取っている人は4、5人しかいません。しかし彼らは決してニュースに関心がないわけではなく、SNSを通じて情報を得ているんです。そういう中で、オールドメディアのいかがわしさが日の下にさらされてきているわけですよ。

    過去の総括ができない日本

    山上 メディアの話に関連して申し上げると、日本では過去の言動を検証して総括する姿勢が弱いと思うんです。
    例えば先日、河野こうの洋平元自民党総裁が亡くなりましたね。メディアが真っ先に書くべきは、その功罪ですよ。特に河野談話が日本国にいかなるさいやくをもたらしたか。この冷静な検証が必要なのに、そういう記事はほとんど見かけませんでした。

    櫻井 おっしゃる通りですね。

    山上 1993年の河野談話で慰安婦への旧日本軍の関与や強制性を認めて謝罪し、さらに2年後の村山談話で日本の植民地支配と侵略を認めて心からのお詫びと痛切な反省を表明したわけでしょう。謝罪文化はこの時から始まったんですよ。その結果、中国、北朝鮮、ロシア、韓国の左翼から歴史カードを振りかざされ続けてきた。この罪はじんだいです。それに対する総括がまったくなされていないのは嘆かわしい限りです。

    櫻井 あの時外務省にいた中国大使は、保守の論客を一人ひとり外務省に呼んでデスクのかたわらに積み上げた書類を指して、「ここに元慰安婦の人たちの証言があります。強制連行は明らかなのだから、文句を言わないでください」と言ったそうです。書類の中身を見せもせずに「これが証拠です」と。外務省も、そこまでして河野談話をフォローしたことについて反省、総括ができていないですね。

    山上 私は責任あるポジションに就いたらその総括をしたいと思っていたんですが、察せられたのか、外務省を石もて追われました。これには本当にじくたるものがあります。いま組織の外に身を置いて痛感するのは、自分が40年間も属していた組織が、いかに世間の常識とかいしてしまっているかということなんです。

    櫻井 官僚だけでなく、政治家もそうです。いまは世界に地殻変動が起きていると言っても過言ではないくらいの激動期で、日本も根本から変わらなければいけない。けれどもそのエネルギーがまだ湧いていないように感じられて、私は強い危機感を抱いています。