2022年3月号
特集
渋沢栄一に学ぶ人間学
我が心の渋沢栄一④
  • ドラッカー学会理事佐藤 等

渋沢栄一とドラッカー

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日本の明治維新を絶賛したドラッカー

「マネジメントの父」とうたわれ、いまなお世界中の経営者やビジネスマンに多大な示唆しさを与え続けている経営学者、ピーター・ファーディナンド・ドラッカー。彼が大きな影響を受けた3人の人物のうちの1人に、日本の渋沢栄一を挙げていることをご存じでしょうか。

きっかけは1934年、ユダヤ人の家庭に生まれ、ドイツで新聞記者を務めていたドラッカーが、ナチスによる迫害から逃れるためロンドンへ移り、銀行に勤めていた頃のことです。仕事帰りに突然雨が降り出し、たまたま雨宿りした場所で見た日本画に「恋をした」というほどのめり込み、後に約200点もの水墨画を蒐集しゅうしゅうするほどの日本画コレクターとなったのです。

そうした経緯で日本に強い関心を抱いたドラッカーが衝撃を受けたのが、明治維新でした。

既に存在するものに新しいものを加えて変革することを理想とする「正統保守主義者」であったドラッカーにとり、多くの流血と混乱をもたらしたヨーロッパの革命は失敗でした。しかし明治維新は日本にもともとあった社会、文化の基盤の上に、西洋の新しい仕組みをうまく取り入れ、最小の流血で変革を成し遂げた、世界的にも希有けうな成功例でした。

「明治の指導者たちが達成したのは、近代国家への脱皮という変化を遂げつつ、日本的価値を維持するという連続性とバランスを上手にとったことだった。歴史的にみても、途方もない課題と混乱をこれだけうまく乗り切ってきた社会はほかにない」

そして、その立役者の一人である渋沢栄一に、ドラッカーは強くかれたのです。

「明治という時代の特質は、古い日本が持っていた潜在的な能力をうまく引き出したことですが、それは、渋沢栄一という人物の生き方に象徴的に表れています」(共に『明治1 変革を導いた人間力』)

ドラッカー学会理事

佐藤 等

さとう・ひとし

昭和36年北海道生まれ。59年小樽商科大学商学部商業学科卒業。平成2年公認会計士試験合格。佐藤等公認会計士事務所開設。14年同大学大学院商学研究科修士課程修了。ドラッカー学会理事。編著に『実践するドラッカー』シリーズ(ダイヤモンド社)など。近著に『ドラッカー教授組織づくりの原理原則』(日経BP)がある。