2020年12月号
特集
苦難にまさる教師なし
  • アイワールド創業者五十嵐由人

人生の天国と地獄

そこから得た教訓

貧しい農家に生まれ、出稼ぎ労働などを経て年商400億円のディスカウントストアの経営者に上り詰めた五十嵐由人氏。しかし、バブル経済崩壊後、その経営は瞬く間に破綻した。人生の天国と地獄を経験した五十嵐氏は、その中から何を学び、何を掴んだのだろうか。

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人生とは〝狂〟の産物である

約20年前、私は経営していたディスカウントストアを倒産させました。年商400億円を売り上げていたグループのトップに立つ男が地位も名誉も財産も、一夜にしてそのすべてを失ったのです。

にもかかわらず、私の人生に後悔はありません。反省は山ほどあっても後悔は不思議なほどありません。なぜなのか。まったく手抜きをせず、何事にも本気で生きてきたからです。それだけは自分の頭をでてやりたいと思います。

母が年を取って亡くなる前、私は「人生とは何ですか」と聞いたことがあります。その時、百姓ひゃくしょうとして生き、何の学問もない母が、遠くを見ながらひと言「おれは人生など知らねえ。ただ一所懸命、一所懸命に生きてきた」とつぶやくように言いました。それまでそのようなことを聞かれたことも話したこともなかったであろう母のこのひと言が、いまも私の中に響き続けています。考えてみたら、私もその通りに生きてきたことを実感しているからです。

人生とは本気の産物であると私は思います。もっと言えば本気を超えた〝きょう〟の世界の産物です。目の前にあるコップでも、いい加減な思いで生まれたものは一つもありません。「何としてもコップをつくりたい」という狂の一念があってこそ生まれたのです。

本気で物事にぶつかっていけば、そこに喜びが生まれます。仕事に喜びを感じないという人は、仕事が好きになるまで、とにかく本気で打ち込んでみることです。本気で頑張っていると、時に苦難や不幸と思える出来事が起きるかもしれませんが、それを乗り越えた先には次の舞台がちゃんと準備されています。そのことを私は「卒業」という言葉で表現しています。

出来事の渦中かちゅうにある時はなかなか分からないことですが、後で振り返って、「ああ、あの時が卒業だったのだな」と思う時が必ず来ます。私にとっても、倒産という試練は本当の幸せに気づくための卒業だったことを、いましみじみと実感しています。

だから、何も心配せずに目の前の出来事に本気になってぶつかっていきさえすればいい、そうすれば後悔のない人生を送ることができる。それが私が78年の人生の中でつかみ取った哲学です。

私は昨年、他の人ではきっと味わえなかったであろう人生体験や数多くの成功、失敗体験の中から得たものを広くお伝えすべくIWビリオネアクラブという会社を立ち上げました。事業の柱として五十嵐経営塾を運営、志のある経営者の育成に努めています。

本欄では、そういう私の歩みの一端をご紹介することで、いま厳しい現実に直面している皆様に、いささかでも勇気や希望を与えられたらと思っています。

アイワールド創業者

五十嵐由人

いがらし・よしと

昭和17年福島県生まれ。高校中退後、商売への夢を描いて神奈川県で出稼ぎ労働者となり、五十嵐組を結成。40年ダイクマ入社。49年退社し翌年アイワールドを創業。年商400億円の企業に育てるも平成14年に民事再生を申請。令和元年IWビリオネアクラブを設立し、これまでの人生体験を踏まえた人材育成に努める。大和晃三郎の芸名で演歌歌手としても活動。著書に『天国と地獄を見た男~炎』(相模経済新聞社)。