2016年11月号
特集
闘魂
対談
  • NOBU&MATSUHISAオーナーシェフ松久信幸
  • すし善社長嶋宮 勤

我が闘魂の人生

「NOBU」と「すし善」——。ともに各界の大御所から愛される名店である。世界五大陸に日本食レストランを展開する松久信幸氏と、〝北の迎賓館〟の異名を取る寿司店を45年経営する嶋宮 勤氏は、いかにしてそれぞれの店を育ててきたのか。2人のプロフェッショナルが語り合う、「一筋の道を歩み続けて摑んだもの」「一流の条件」「人生の闘いに勝つ秘訣」とは何か。

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俳優・高倉健が出逢いのきっかけ

松久 きょうは長年お付き合いのある嶋宮さんと対談ということで、ちょっと緊張しています(笑)。

嶋宮 いやいや、何をおっしゃいますか(笑)。

松久 元を辿れば嶋宮さんと僕の縁を取り持ってくれたのは、俳優の高倉健さんでしたね。

嶋宮 あれは確かノブさんが東京にお店をつくった時なので……。

松久 1998年、いまから18年前です。『高倉健 旅の途中で…』というラジオ番組の中で、高倉健さんが海外で頑張っている日本人として僕のことを紹介してくださった。後日、ラジオ局の方が録音したカセットテープを、僕が日本にいる時にわざわざ持ってきてくれたんですよ。
僕にとって高倉健さんは本当に憧れの人であり、尊敬していましたからすごく感動して、ソニーのウォークマンで何度も繰り返し聴いていた(笑)。
で、ちょうど同じ放送の時に、高倉健さんが北海道の「すし善」によく行かれるっておっしゃっていたんです。何とか高倉健さんとお会いしたいと思って、すし善というお店を調べて嶋宮さんに連絡を取り、札幌まで会いに行ったのが最初の出逢いでしたね。それで嶋宮さんを通じて、東京で高倉健さんとお会いする機会をつくっていただきました。

NOBU&MATSUHISAオーナーシェフ

松久信幸

まつひさ・のぶゆき

昭和24年埼玉県生まれ。東京・新宿「松栄鮨」で修業した後、ペルー、アルゼンチン、アラスカのレストランで経験を積む。62年ロサンゼルスに「MATSUHISA」を開店。その後、「NOBU」をニューヨーク、ロンドン、東京など世界各地に展開する。平成25年ラスベガスに「NOBU Hotel」をオープン。著書に『お客さんの笑顔が、僕のすべて!』(ダイヤモンド社)など。

あなたのために握る寿司

松久 そもそも高倉健さんとは、どういうご縁だったのですか。

嶋宮 あれはいまからもう40年くらい前ですけど、北海道にロケに来た健さんがうちの店へ寿司を食べに来たんです。そのきっかけをつくってくれたのは倉本聰さんなんですよ。聰さんと私はその前から仲がよくてね。聰さんが寿司を食べたいと言う健さんを連れてきてくれたわけです。
どういうわけか知らないけど、健さんに気に入ってもらって、それから時々、一人で食べに来るようになったんですよ。私のことを「嶋ちゃん、嶋ちゃん」って呼んでひいきにしてくれました。

松久 嶋宮さんのお店は、高倉健さんや倉本聰さんなど、各界の大御所の方々に愛され、「北の迎賓館」と呼ばれていますよね。

嶋宮 ありがたいことです。45年前かな、作家の五木寛之さんがたまたまパッと店に入ってきたんですよ。それからしばらくして五木さんが『週刊朝日』の連載にうちのことを書いてくれました。札幌に行くとよく行く寿司屋がある。この寿司屋はいつ行っても裏切られない、いい寿司屋だって。
当時はちょうど経営が苦しい時期でしたけど、そのおかげで売り上げが伸びましてね。だからこの前、一緒に食事した時に、「いやぁ、先生があれ書いてくれなかったら店潰れてたよ」って言ったんです。
あと、画家の平山郁夫さんにも可愛がっていただいて、うちの店の看板を描いてもらいました。

松久 そういう方々から愛されている要因は何だと感じていますか。

嶋宮 独立したばかりの頃は全然お客さんが来なくて、困り果てたこともたびたびでした。そんな中、いつも心に留めていたのは、五木さんが書いてくれたように、「裏切らない」っていうことですね。
おいしい寿司をお客さんの納得のいく価格で販売する。お客さんが納得するのであれば、たとえ5万円でも10万円でもいいと思っています。しかし、納得しない寿司はタダでも駄目ですね。
ある時、アメリカ人の記者から「あなたの握る寿司と回転寿司の違いは何ですか」って聞かれたことがありまして、私はこう言った。「俺の寿司はあなたのために握る寿司だよ。回転寿司は誰のためでもなく、機械が勝手につくっている。その違いだ」と。そうしたらみんな立ち上がって拍手してくれましたけど、そういう気持ちでずっとやってきました。
おかげさまで今年創業45年を迎え、ノブさんとは比べ物にならないけど、札幌に5店舗、銀座に1店舗、計6店舗の経営をしています。「現代の名工」に表彰されたり、「日本食普及の親善大使」として世界各国に出向いて寿司を振る舞ったりしていますが、こんないい仕事は他にないなとつくづく感じています。

すし善社長

嶋宮 勤

しまみや・つとむ

昭和18年北海道生まれ。中学卒業後、小樽から単身上京し、銀座や札幌の寿司店で修業を積む。46年札幌に「すし善」を開店。60年札幌郊外の円山公園に2店舗目を出店し、本店とする。以後、札幌を中心に展開し、「北の迎賓館」と呼ばれる名店に育て上げた。平成20年厚生労働省より「現代の名工」として表彰され、23年黄綬褒章を受章。28年農林水産省より「日本食普及の親善大使」に任命される。