2022年6月号
特集
伝承する
  • 比叡山延暦寺観明院住職宮本祖豊

人は皆、
限られた命を生きる

人は一生のうち、どこまで精神を高めることができるのだろう。20代の頃から修行に打ち込み、比叡山で最も過酷とされる行の一つ、「十二年籠山行」の戦後6人目の満行者となった宮本祖豊師。2年前にがんが見つかり、昨年ステージⅣの宣告を受けたというが、その姿勢にはいささかの迷いも動揺もない。限りある命をどう生きるか。伝教大師最澄の教えを交え、現在の心境を吐露していただいた。

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自分の心を見つめ自分の心を知る

まだ薄暗い朝5時前に目を覚まし、えいざんふもとにあるぼうにてお経を上げることから私の一日は始まります。朝食をった後、支度をしてケーブルカーで山上へ。だいにちにょらい様をほんぞんとし、緑豊かな境内に建つ大講堂の責任者としてお勤めに従事しております。

お勤めとは何かと言うと、私たち天台宗でり所にしている『きょう』のどくじゅなどが主なものです。夕方4時半にそれら山上の勤務を終えますと、麓の自坊に戻り、夜のお勤めをして、遅くとも11時には明日に備え床に就く。これが毎日変わらぬ流れです。

つい数年前までりん(在家の方のための研修道場)の所長を務め、企業の新入社員や学生さんの研修も多く受け入れていました。わずか1泊2日ないし2泊3日で、食事から坐禅、写経まで、お坊さんの作法をひと通り体験し、自分を見つめていただく。当時は企業や地方の寺院に頼まれて法話におもむくこともよくございました。

ところがその居士林が4年前に台風でつぶれ、加えてコロナに見舞われたことで、そうした機会はめっきり減ってしまいました。世の中を見渡しても、リモート化が一挙に進み、家にいる時間が急増したがために、家族との喧嘩や夫婦の離婚が増えたといったマイナス面が目につきます。

けれども、物事にはマイナス面があれば、必ずプラス面もあるものです。このコロナ禍によって自分自身を見つめる時間が増えた、ととらえることもできるはずです。長らく仕事に追われ、自分をかえりみる時間が持てずにいた方は特に、貴重なチャンスが与えられたと考えてみてはいかがでしょうか。

これは私自身が実感を込めて言えることでもあります。昭和59年、24歳で出家得度し、比叡山で最も過酷かこくな行の一つ「十二年ろうざんぎょう」を満行しました。

外界との交流を遮断された環境で行に励む。その中で様々な試練にいながら、自分の心を見つめることがいかに大切かに気づかされてきました。修行と人生、この二つは違うように見えて、必ず壁に突き当たる点は同じです。それを乗り越える参考になればとの思いで、いまも機会あるごとに自分の体験をお話ししているのです。

比叡山延暦寺観明院住職

宮本祖豊

みやもと・そほう

昭和35年北海道生まれ。59年出家得度。平成9年好相行満行。21年比叡山で最も厳しい修行の一つである十二年籠山行満行を果たす(戦後6人目)。比叡山延暦寺円龍院住職、比叡山延暦寺居士林所長を経て、現在は同観明院住職、大講堂輪番職を務める。著書に『覚悟の力』(致知出版社)。