2020年9月号
特集
人間を磨く
インタビュー①
  • 新堀学園理事長新堀寛己

心の糧になるよい音楽を
すべての人々へ

小さなバラックで立ち上げたギター教室を全国に展開し、音楽の本場ウィ―ンでの演奏会で万雷の拍手を巻き起こした新堀寛己氏。86歳のいまも、ギターを通じて心の糧となる音楽を追求し続ける氏を突き動かすものは何か。少年期に掲げた志、乗り越えてきた逆境を交え、理想と共に歩んできた一筋の道を振り返っていただいた。

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どこまで到達するかが人生

——新堀ギター音楽院の名は、全国の街角で見かけるユニークな看板で広く知られていますが、新堀さんが設立してもう63年になるそうですね。

質素なバラック小屋で学校を立ち上げたのが、大学を出た昭和32年でした。手書きの看板に記した「心の糧になる音楽を!」をモットーに、ギター教育に熱中し、夢中で取り組むうちに63年が経ち、僕も86歳になりました。
いま力を注いでいることが2つありましてね。一つは、音楽で皆さんの元気を取り戻すにはどうしたらいいか。特にいまは、新型コロナウイルスの蔓延まんえんで人々が大きな不安やストレスにさらされていますから、とても重要なテーマだと思って取り組んでいるんです。そしてもう一つが、人生の最終楽章に向けての準備です。
それで、前者について具体的に手掛けているのがミュージック・セラピー(音楽療法)です。欧米では100年くらい歴史がある分野で、最近は日本でも、よい音楽を聴くと体が元気になることが科学的に証明されるようになってきているんです。

——よい音楽で人は元気になる。

世界最古の文明といわれる古代メソポタミアでは、神のお告げを聴く時には必ずギターを演奏して心の中から雑念を取り払ったといいます。ギターというのは最も長く人間と共に歩み、人間の悩みをやしてきた楽器であって、その歴史を辿たどれば、いま僕たちが抱えている問題に貴重なヒントが得られるんです。
僕が独自に開発したギターの中には、ピアノの真ん中のキーよりも高い音を出すものがあるんですが、その音域は脳の海馬かいばというところにポンと響いて、人間の気持ちを心地よくさせるんだそうです。それから、例えばヘンデルの『ガヴォット』のように心臓のビートに合った名曲を聴くと、速くなった脈拍が修正されて心身がリラックスするともいいます。そんなふうに、よい音楽を聴くと人間の体が元気になるメカニズムが、次々と実証されているんですよ。

——それは画期的なことですね。

2つ目について言うと、僕の人生のおしまいというのはもうある程度計算できるわけですから、最大限生かしていただけた場合はここまでやろう、真ん中くらいだったらここまでと、残りの時間に応じてやることをイメージしているんです。そして最も短い場合、あと3年~5年命をいただけるなら、後を託す後輩のためにやれることはすべてやっておきたいと考えて、いま動き始めているところです。

——しかし、とても人生の最終楽章とは思えないほど心身共にお元気そうに見えます。

僕はね、人生は山を登って下りて終わりというふうには考えていないんです。ダーッと登って辿り着いた到達点、それがその人の人生という考え方なんです。だから人間を磨けば磨くほど高い所まで行けるし、トータルで見れば高齢者は若者に負けるはずがない。

——どこまで辿り着けるかが勝負だと。

人生というのは終わるものじゃなくて、成就するものです。だから僕は、お別れの会なんかやってもらいたくない。後を担ってくれる皆の守り神になるための出発なんだから、やるなら「出発の会」にしてもらいたいですね。わはははっ(笑)。

新堀学園理事長

新堀寛己

にいぼり・ひろき

昭和9年東京生まれ。32年青山学院大学卒業、新堀ギター音楽院創立。高音・中音・低音の各音域ギターを考案・開発。ギターオーケストラを創始。これらは「新堀メソード」として平成7年に世界学術文化審議会より国際グランプリ受賞。著書は教本の他、『50歳から人生を謳歌するギター演奏のすすめ』(幻冬舎)『健康長寿の維持』(湘南社)など。