2016年6月号
特集
関を越える
一人称
  • 作家石川真理子

勝 海舟の
遺訓に学ぶ

江戸無血開城を成功へと導き、江戸百万の町民を守った幕末の英傑・勝 海舟。その歩みは幼少期から苦難の連続だった。幼い頃から海舟に魅了されてきたという、米沢藩士の血を引く石川真理子さんに、その遺訓を紐解いていただきつつ、自省自修の人・勝 海舟の人物像に迫っていただいた。

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つかず離れず

幼い頃、父が私の手を引いてよく連れて行ってくれたのが、「洗足池」と呼ばれる小さな池でした。そこは生家からゆっくり歩いて小一時間のところにあって、歌川広重の「名所江戸百景」に描かれるほど、風光明媚な情景が広がっていました。

洗足池の畔に立つ勝海舟のお墓の前まで来ると、父はいつも決まって海舟の話を始めました。それだけ父は海舟が大好きだったのでしょう。

その場所で私は勝海舟と出逢ったのです。

もっとも、父が朗々と話してくれたことを、いまは何一つとして思い出すことができません。その代わり、当時私の中に印象として強く残ったのは、海舟がいかに立派な人物であったかという人間像でした。

それだけに、『氷川清話』『海舟座談』などを学生時代に読むようになって感じたのは、

「勝海舟だったら、このくらいのことは言うだろう」

「こういう見方をして当然だ」

といったことばかりでした。その頃から、海舟は私にとって大変身近な存在になっていたのです。

子供の頃から様々な歴史上の人物について学んできましたが、今日に至るまでつかず離れずといった感じで接してきた海舟は、私の心の中心を占める人物の一人になっているのです。

作家

石川真理子

いしかわ・まりこ

昭和41年東京都生まれ。12歳まで米沢藩士の末裔である祖母中心の家で、厳しくも愛情豊かに育てられる。文化女子大学(現・文化学園大学)卒業。編集プロダクション勤務を経て、結婚後は作家として活動。著書に『女子の武士道』『女子の教養』『活学新書 勝海舟修養訓』(いずれも致知出版社)がある。