2018年9月号
特集
内発力
対談
  • 全日本柔道男子代表監督(左)井上康生
  • ALSOK会長兼CEO(右)村井 温
強い人材、組織をつくる要諦

内発力をいかに引き出すか

日本を代表する民間警備会社であるALSOKの代表として日本の安全を守るとともに、スポーツ選手を起用したユニークなCMなどで社業を発展させてきた村井 温氏。ロンドンオリンピックで男子柔道金メダルゼロに終わった日本柔道を再建し、リオオリンピック全7階級メダル獲得という史上初の快挙を成し遂げた全日本柔道男子代表監督の井上康生氏。それぞれの分野で目覚ましい結果を残してきた両氏に、人生の歩みとともに、内発力を高め、強い人材、組織をつくる要諦について縦横に語り合っていただいた。

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自分が優勝することで恩を返していく

村井 きょうは井上さんとゆっくり話ができるというので、楽しみにしていました。

井上 私は少し緊張しています(笑)。

村井 まず、最初の出会いからでも話しましょう。当社は世の中の安全を守る警備業ですので、社員は強くならなければならないということで、毎年1回、全国各地の支社やグループ会社の社員が集まって、柔道大会を行ってきました。他にも剣道や護身術などの大会も行っていますが、毎年必ず開催しているのは柔道だけです。
それで全日本選手権やオリンピックに出場するような優れた柔道選手が社内の仲間にいれば、社員の刺激にもなるので、そういう立派な選手を採用したいと思っていたら、かねてからお世話になっていた東海大学の佐藤宣践のぶゆき先生が「シドニーオリンピックで優勝した井上康生君を推薦してもよい」と言っていただきました。
井上さんが入社してくれるならそれはありがたいと、話がとんとん進み、2001年に当社に入社していただいた。これが私と井上さんの最初の出会いでしたね。

井上 ええ、そうでした。

村井 井上さんは真面目でしっかりした方であるけれども、どこかスター性があって、はながあるという感じでね。当社の社員たち、柔道に取り組んでいる選手の士気を高揚させる上でも、大変素晴らしい人材だと思っていました。

井上 実は佐藤先生からALSOKアルソックを紹介していただいたのは、1999年、大学3年生の時でした。「康生がより一層柔道が強くなるために、人間的にも成長するために、ALSOKというとても素晴らしい会社がある」と、いろいろお話をしていただいたんです。

村井 あぁ、大学3年生の時に。

井上 私にとって東海大学で指導してくださっていた佐藤先生の存在は非常に大きなものがありましたし、先輩もALSOKでお世話になっていたこともあって、最終的に「この会社で頑張りたい」と自分自身で入社を決めました。
そして入社すると、村井会長には事あるごとに声を掛けていただき、大会の壮行会でも多くの社員の方に励ましていただくなど、非常に温かくサポートしていただきました。自分は皆のそういう思いを背負って戦っている、優勝することでその恩を返していくのだという自覚を持って柔道に向き合うことができたのは、本当に得難い学びだったと思っています。

ALSOK会長兼CEO

村井 温

むらい・あつし

昭和18年大阪府生まれ。41年東京大学卒業後、警察庁入庁。富山県、熊本県、福岡県警察本部長、中部管区警察局長などを歴任し、平成8年退官。預金保険機構理事を経て10年ALSOK副社長、13年社長などを経て24年より現職。

1・2・3・4 ALSOKCM誕生秘話

井上 また、村井会長にはCMにも起用していただいて……。

村井 当社にはスポーツに専念している社員がいつも20名くらいいます。もちろん、スポーツ振興のお役に立ちたいとの思いもあるのですが、井上さんが大きな大会で優勝した後、私がお客様のところに挨拶に回っても、井上さんがALSOKの社員であることを知らない人が結構いたのでがっかりしました。それで、世間ではスポーツ選手の名前と所属している会社の社名が一致していないことが分かり、「それじゃあ、井上さんが当社の社員であることを知ってもらおう」ということで、テレビCMに出てもらいました。すると今度は、それが企業の知名度やブランド力向上にもつながっていくことが分かりましてね。
以後、皆さんもご存じの「1・2・3・4 ALSOK」のようなユニークな内容のコマーシャルもつくりながら、井上さんだけではなく、吉田沙保里さおり選手など、スポーツ選手を中心に据えたCMに力を入れるようになったのです。
ただ、知名度のある選手をCMに起用すれば、会社の知名度も上がることは少し考えれば誰でも分かることなのですが、コロンブスの卵と一緒で、当時はほとんど他の企業はやっていませんでした。

井上 CMに自分が出ることによって会社に貢献できたことは非常に嬉しく思いますし、私個人としても、子供たちから「『1・2・3・4 ALSOK』のおじさんだ!」と言われるくらいに知名度が上がりました。思い切って私をCMに起用してくださった村井会長には、感謝しかありません。

全日本柔道男子代表監督

井上康生

いのうえ・こうせい

昭和53年宮崎県生まれ。平成9年東海大学入学。11年バーミンガム世界選手権大会100キロ級優勝を皮切りに、12年シドニーオリンピック柔道100キロ級金メダル、13年全日本選手権大会100キロ級で優勝し、3冠王者に輝く。同年東海大学卒業。東海大学大学院体育学研究学科体育学専攻修士課程修了後、ALSOK入社。20年現役引退。東海大学柔道部副監督などを経て、24年11月より全日本柔道男子代表監督に就任。リオオリンピックで史上初の全7階級メダル獲得を達成。