2020年11月号
特集
根を養う
インタビュー①
  • ひまわり市場社長那波秀和

すべての人を笑顔にする
経営を目指して

自然豊かな山梨県八ヶ岳の麓にあるスーパー「ひまわり市場」は、地元の人のみならず、県外からも大勢の人たちが詰めかけ、客足が途絶えることのない人気店だ。もともと赤字続きで倒産寸前だったという同店を、ユニークな取り組みと、愛に溢れた経営で再生に導いた那波秀和社長に、その改革の軌跡と共に、皆を笑顔にする経営のヒントを語っていただいた。

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生きることは食べること

——山梨の八ヶ岳やつがたけふもとに、全国各地から人々が押し寄せるスーパーがあると聞いてやってまいりました。現地についた途端に、情熱あふれる店内放送が駐車場まで聞こえてきて、圧倒されました(笑)。

あの店内放送、マイクパフォーマンスは、私の手が空いた時に、毎日朝から夕方の5時くらいまでやっています。マイクを握って店内をぐるぐる回りながら、例えば、「いまちょうどカツオの刺し身が出ました!」「いまれ立ての枝豆入りました!」など、商品や食材の特徴を交えながらリアルタイムで情報を伝えていくんです。
この前も、いろいろな情報を片っ端からしゃべっていたら、あるお客さんが「あんたが言うもの全部買っちゃうじゃないの。お金がいくらあっても足りないわ!」と怒って帰っていかれました。めているのか、怒っているのか(笑)。

——それは嬉しい反響ですね(笑)。店内放送をしている時に、特に意識していることはありますか。

意識しているのは、商品同士を比べてどちらかを悪くののしったり、誰かに嫌な思いをさせたりしないこと、うそは絶対につかないということです。古くなった食材は正直に「ちょっと古いけど、安くするから買ってください。食えないことはありません」と(笑)。
あとは、お客さんを巻き込むことも大切にしています。例えば「きょうはカレーパンないの?」と尋ねてきたお客さんがいれば、「奥さんが『頼むから早くカレーパン出してくれ』って言っていますよ!」とマイクで喋るわけです。県外からいらっしゃったお客さんがいれば、「××県から来てくださいました」ってアナウンスする。
すると、そこから社員やお客さん同士の交流が始まったりするんですよ。

——お客様との親密度を高めるきっかけにもなっているのですね。

それも大事ですが、スーパーの店内放送で自分のことが流れる経験なんて普通はできないと思うんです。ですから、「きょうはお店でいじられちゃって」と家族に楽しく話せる。ひまわり市場いちばで買い物したことがお客さんのよき思い出になればと願って、マイクパフォーマンスをやっています。

——ユニークな店内放送もそうですが、食材、商品の品ぞろえにも独自のこだわりがあるそうですね。

ええ、目利めききの社員たちが鮮度のよいりすぐりの魚やお肉、野菜、お酒、調味料などを全国から仕入れているんです。棚が空いているからとりあえず並べようではなくて、一つひとつに社員の思いがこもった、お客さんが「これ買ってよかったな」と心の底から満足してくださる食材、商品で100%固めようという思いでやってきました。そしてその食材を腕利きの職人たちが刺し身や寿司、お惣菜そうざいやお弁当にして提供しています。

——こだわりの食材を使ったプロの本物の料理を味わえると。

コロナでも徹底した感染症対策をして、おかげさまで1日1,000人ほどのお客さんにご来店いただき、業績も好調です。ほとんどがリピーターですが、北海道から沖縄まで、わざわざ県外からお越しくださる方もたくさんいます。
いまスーパーでも、機械によってレジや調理の自動化が進み、人との触れ合いがなくなっていますけど、それじゃあ、あまりにさびしいですし、何のための人生かなって思うんです。やっぱり自分が食べるものは楽しく選んで、できるだけよいものを食べないと。だって、生きることと食べることは一緒じゃないですか。食べずに生きられる人はいないんですから。

ひまわり市場社長

那波秀和

なわ・ひでかず

昭和44年大阪府生まれ。成蹊大学卒業後、大手スーパーのヤオハンジャパンに就職。平成13年ひまわり市場に入社。店長を経て、23年から現職。