2020年11月号
特集
根を養う
インタビュー②
  • 中村学園女子高等学校剣道部顧問岩城規彦

指導者の仕事は根を養う
土壌や水、肥料となって
養分を与えてあげること

「一流の選手である前に、一流の高校生たれ」。そう生徒たちを指導しているのが、2019年のインターハイで4連覇を成し遂げた中村学園女子高校剣道部監督の岩城規彦氏である。独自に編み出した〝心を鍛える指導〟により、一人ひとりの精神を鍛錬し、スキルを向上させているという。そんな岩城氏が語る、よい選手の条件、指導者の心得とは——(写真:2019年にインターハイ団体戦で4連覇を成し遂げた時の一枚)。

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コロナ禍でも続けたミーティング

——今夏は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、全国高校総体(インターハイ)が全種目において中止となりました。高校生にとっては喪失感も大きかったのではないかと思います。

2020年のインターハイは団体戦で5連覇を懸けた大会でもあったため、高校3年生は特につらかったと思います。次の大会の予定も決まっていないので、突然子供たちの目標がなくなり、モチベーションをどこに定めたらいいのか、皆が模索している状態です。
ただ、武道は本来、技術よりも〝道〟を追い求めるもので、鍛錬を通じて人間形成を図るのが目的です。目標が見えていない中でも、人間性を磨くという目的がはっきりしているため、いまは心を強化する時期だと受け止めています。

——ああ、精神面を鍛える時だと。

子供たちには剣道を通じてどういう人間になりたいのかを考えなさいと繰り返し説いています。スキル面においては、体力差や生まれ持った能力の違いもあって、やはり限界が生じます。しかし精神面には限界がありませんので、これも一つのチャンスだととらえ、日頃忙しくてなかなか教えきれなかったことを子供たちに伝えようと取り組んでいるところです。

——具体的にはどのように指導されているのですか?

緊急事態宣言下の2か月間は登校も道場での練習も行えませんでしたが、幸いにして当校では以前から全生徒がiPadアイパッド(タブレット型のモバイル端末)を使用した授業を行っており、インターネット環境さえ整っていれば授業を続行できたんです。そのため画面越しで授業を行った後、部活もビデオ通話ができるアプリで生徒同士を繋いで、毎日14時からは合同トレーニングや清掃を、20時からはミーティングを行うことを義務づけました。
5月上旬にはインターハイの中止が正式に決まり、やり切れない思いを抱え、目をらしている子もいました。私たち教師にとっても初めての経験でどうしたらよいか分からなかったというのが実情ですが、とにかく子供たちと関わる時間を増やし、それまで以上に密なコミュニケーションを取るよう心掛けてきたんです。
2020年の高校3年生4名は夏に引退しましたが、誰一人として愚痴ぐちをこぼさず、いまできることを一所懸命に尽くしてくれました。そんな3年生たちに少しでもやり切ったと感じて引退してほしいと思い、本物の大会とは比べものになりませんが、後輩指導や日々の生活で課題を与えて挑戦させ、精神面や生活面に関してはいつも以上に厳しい指導をしてきました。

中村学園女子高等学校剣道部顧問

岩城規彦

いわき・のりひこ

昭和44年山口県生まれ。福岡大学付属大濠高校、福岡大学卒業。母校の大濠高校で1年、中村学園三陽中学で5年の勤務を経て、平成9年に中村学園女子高校に赴任。28年から令和元年まで、インターハイ4連覇中。