2017年9月号
特集
閃き
インタビュー
  • 九州旅客鉄道会長唐池恒二

事業は閃きである

昨年(2016年)、発足30年の節目に東証一部上場を果たしたIR九州。同社が手掛ける日本初のクルーズトレイン「ななつ星in九州」は、運行開始から4年が経過したいまなお、抽選平均倍率が16倍を超える人気ぶりで、第1回「日本サービス大賞」内閣総理大臣賞を受賞するなど、脚光を浴びている。その「ななつ星」をはじめ、これまで数々のヒットを生み出し、同社を上場へと導いてこられた唐池恒二会長に、これまでの道のりとともによいアイデアを閃く秘訣について伺った。

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原点は誠実さ

──JR九州は昨年上場を果たしましたが、唐池会長はいまどんなことに力を注いでおられますか。

私どもは昨年10月、会社発足から30年の節目に、東証一部上場を実現しました。この30年の道のりは決して平坦ではなかったんですけど、よくここまで来たなと。社員も皆、安心感や誇りを抱いたと思うんです。
ただ、こういう時にこそ、もう一度会社発足時の危機感とか描いていた夢を思い出し、緊張感のある組織にしなきゃいけないというのがいまの私の思いですね。

──上場を機に、また気を引き締め直すと。

年度初めの4月1日に会長と社長が全社員に向けてメッセージを出すんですけど、私は今年度、企業30年説を引用して話をしました。一つの企業が繁栄を謳歌できるのは30年にすぎないと言われている。当社は上場した直後だけど、いまこそ危ない。これから必要なのは「成長と進化」だと。

──「成長と進化」ですか。

成長とは既存の事業をより効率的に運営し、規模の拡大を図っていくことであり、進化とは業態や組織を改革し、新しい事業分野に挑戦すること。成長意欲は企業の本能ですが、進化に対しては臆病になりがちです。
しかし、株式上場という一つの成功体験に甘んじて、安心感のもとにいまのままやっていると滅んでしまう。その警鐘を鳴らすために、私どもは「成長と進化」に加えて、「誠実」と「地域を元気に」の3つを行動の基本として掲げているんです。
誠実というのは当たり前かもしれませんけど、嘘、偽り、ごまかしがなく、周りの人に対して思いやりを持って行動することです。最近の事例を挙げると、東芝にしても三菱自動車にしても、きっかけは粉飾決算やデータ改竄ですが、それだけで優良と言われた大手企業が経営破綻したのではないんですね。その後の対応に失敗したんですよ。

──その後の対応がよくなかった。

もちろん不正行為が明るみになった時点で一定の信頼はなくなるんですけど、その時にそれを隠蔽しよう、ごまかそうとすると、今度は企業のすべての信頼がなくなって、経営破綻してしまう。
あれほどの企業が凋落していく様を見るにつけ、やはり上場したいまこそ、誠実という原点に立ち戻るべきではないか。そういう思いで、何か事件や事故が起こっても隠蔽しよう、ごまかそう、嘘をつこうとするのは罷りならんと、事あるごとに伝えているんです。

九州旅客鉄道会長

唐池恒二

からいけ・こうじ

昭和28年大阪府生まれ。52年京都大学法学部卒業後、日本国有鉄道(国鉄)入社。62年国鉄分割民営化に伴い、九州旅客鉄道(JR九州)総務部勤労課副長。外食事業部長、経営企画部長、2度のJR九州フードサービス社長などを経て、平成21年社長に就任。26年より現職。著書に『鉄客商売』(PHP研究所)などがある。