2020年3月号
特集
意志あるところ道はひらく
  • 日本政策研究センター代表伊藤哲夫

「五箇条の御誓文」の真実

「五箇条の御誓文」が日本の民主主義の端緒をひらいた——。そう語るのは日本政策研究センター代表の伊藤哲夫氏である。御誓文は日本が近代化を推し進める上で中心的な役割を果たし、その内容は日本がこれから目指すべき道標ともなり得るという。御誓文に込められた明治天皇や先人の思いについて語っていただいた(絵:『五箇條御誓文』(乾 南陽)聖徳記念絵画館蔵)。

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民主主義時代を先取りした「五箇条の御誓文」

日本はいま新しい時代に向けての国家ビジョンが描けるかどうかという大きな瀬戸際に立たされています。目下の懸案である憲法改正を実現して大局的な将来像を描き、国内外の様々な難題に対処していかない限り、日本の未来はひらけないでしょう。私は憲法論議や日本の展望に関する話題を耳にする度に頭に浮かぶものがあります。約150年前に布告された「五箇条ごかじょう御誓文ごせいもん」です。

「五箇条の御誓文」は慶応4(明治元/1868)年3月14日、明治天皇が公卿くぎょう、諸侯など諸臣を率いて自ら天地の神々にお誓いになられた明治新政府の基本方針です。

私はそこに示された内容こそが、我われが求めるべき憲法の軸となる思想でもあり、国家像そのものとも思えてならないのです。

例えば、御誓文では民主主義や国際社会との関わりの原点ともいえる精神が打ち出されています。昨今の香港情勢に象徴されるように、いまのこの時代においても民主主義を実現することすらままならない世界の現実があります。開国間もない混乱、混沌こんとんの時代に、新時代を先取りしたこのような明確な国是こくぜが示され、民主政治、人権尊重の端緒たんしょをひらいたのはまさに特筆すべきことなのです。

しかも、その内容はフレキシブルで、知識を広く世界に求めるという進取の気性に富んでいます。加えて公の精神の下、国民が一体となって新しい日本を築きあげていこうという気概に満ちたものであり、一部で言われるような型にはまった国体論でも偏狭で専制的な思想でもありません。

明治の先人たちは、この御誓文を単なる理想として終わらせるのではなく、総力を挙げてその実践に努め、魂を吹き込むことで近代日本のいしずえを築きました。もちろん、西南戦争に代表される士族の反乱もあり、一気に国家建設が進んだわけではありません。しかし、そうした混乱は「人権宣言」を出した後もなお残虐な戦争や殺戮さつりくが続いたフランス革命とは比較にならないほど限られたものでした。

このことは国家の重大時に日本国民が深刻な対立や分裂を克服し得た証左であり、その紐帯ちゅうたいとなったのは「五箇条の御誓文」であったことは明らかだと思います。

日本政策研究センター代表

伊藤哲夫

いとう・てつお

昭和22年新潟県生まれ。新潟大学卒業。国会議員政策スタッフなどを経て、保守の立場から政策提言を行う日本政策研究センターを設立。現在日本会議常任理事、日本李登輝友の会常務理事。著書に『明治憲法の真実』『教育勅語の真実』(共に致知出版社)『憲法かく論ずべし』(日本政策研究センター)など。