2018年1月号
特集
仕事と人生
インタビュー③
  • 漆芸家、人間国宝室瀬和美

一人でも多くの人に
漆の素晴らしさを伝えたい

縄文時代から続く日本の漆文化の歴史と伝統を継承しつつも、卓越した技法と斬新なデザインに絶えず挑戦し、人々を魅了し続けてきた漆芸家・室瀬和美氏。漆とともに50年以上歩んできた室瀬氏が語る、漆との出逢い、師の教え、そして漆の素晴らしさ——(写真:蒔絵螺鈿硯箱「椿」を前に
〈縦24.5、横17.3、高4.6センチ/2005年制作〉)。

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海外に受け継がれる日本の漆文化

——2017年5月にはスペインに行かれたと伺いました。国内のみならず海外でも大変なご活躍です。

私は日本でうるし、特に蒔絵まきえの作品をつくってきましたが、日本人は西洋の人とはまた違った美の求め方をしています。
ですから、漆のよさとか、作品の見方、それをとおした日本人の感覚とか、そういうところの理解を海外の方にもう少し広げていきたいと思っていましてね。以前から海外には出ていたんですが、アメリカやイギリス、スペインなど、最近は特に海外への発信の機会が増えつつあります。

——スペインなどでも、日本の漆文化への関心は高いのですか。

ええ。私も最初は、スペインと日本の漆文化が直接つながっているとはイメージできなかったんですけど、いわゆる16世紀の安土桃山時代に、日本の漆工芸が世界に出て行ったきっかけというのは、やはり、ポルトガルやスペインとの交易なんです。
その時代に注文を受けて日本でつくられたものが、いまだに向こうには残っていて、漆文化に興味のある方が結構いるんですね。
あと、これは思わぬことだったんですが、バルセロナの美術大学に漆を教えるコースがあるというので、えーっと思って、昨年(2017)行ってみたんですよ。そしたら日本人の先生ではなくて、スペイン人がスペイン人に漆を教えている。

——それは意外ですね。

どこから漆の技法が伝わってきたのか聞いてみると、明治時代に日本人がパリに行って漆工芸を教えていたんですね。その時に学んだパリの作家の工房に、バルセロナの作家が手伝いに来て技を身につけ、バルセロナにも二次的に広がっていったんだと。
それで漆の話や技法についてレクチャーしたのですが、大学の卒業生たちが、「再来年(2020)に漆の技法が伝わって100年になるので、これをきっかけに漆の作家協会をつくりたい」と言ってくれましてね。
2017年の5月にまた呼ばれて行ったわけですけど、ちゃんと日本の技法を踏襲して、ものすごく熱心に作品をつくっていましたよ。

——日本人が知らないところで漆文化が広がっているんですね。

彼らは漆について知りたいことが山ほどありますから、これからも技法だけではなく、日本人の考え方・価値観というか、漆文化そのものを継続的に伝えていくことで、海外の人に日本のことを理解してもらう、すごくいいきっかけになっていくと思います。

漆芸家、人間国宝

室瀬和美

むろせ・かずみ

昭和25年東京都生まれ。父は漆芸家の室瀬春二。51年東京藝術大学大学院美術研究科漆芸専攻修了。国内外の展覧会に作品を発表するとともに、漆芸文化財保存に携わり、金比羅宮天井画復元、琉球古楽器復元等において失われた技法の復活に務め、正倉院宝物の分析でも功績を残す。平成20年重要無形文化財保持者(蒔絵)認定、紫綬褒章受章。『漆の文化』(角川選書)『室瀬和美作品集』(新潮社図書編集室)などの著書がある。