2018年8月号
特集
変革する
  • ものまねタレント、俳優滝川広志(コロッケ)

僕を変えてくれた
母の生き方

ものまねタレント・コロッケこと滝川広志氏。その才能は、幼少時代からの貧困生活や難聴に苦しんだ自身の体験の中から芽生えたという。どのような時も笑顔を絶やさなかったお母様の生き方や教えなど交えながら、これまでの半生を振り返っていただいた。

    この記事は約14分でお読みいただけます

    人生の原点となった母の教え

    僕が芸能界に入って38年という歳月が流れました。この間、自分なりに無我夢中で走ってきましたが、ふと振り返ると、かつては〝にぎやかし〟として扱われていたものまねが、いまや一つのエンターテインメントとして確立し、ものまねだけで舞台やコンサートを開けるようになりました。これは僕にとって大きな喜びです。

    僕自身、ありがたいことに平成26年には文化庁長官表彰をいただくことができました。これも、ものまねが芸術文化の一つとして認められた表れで、時代が大きく変わってきたあかしなのかな、という実感を抱いています。

    もちろん、一人の力でそうなったわけではありません。その時々、芸を磨き合う仲間がいたり、いいスタッフに恵まれたり、応援してくださるファンの皆様がいてくださったからこそ、一つの世界をつくりあげることができたわけですから。

    僕はいまの自分に納得しているわけではないし、常に新しいことに挑戦を続けています。6月に封切られた映画『ゆずりは』は、人間の生と死という問題を真っ正面から取り扱う非常にシリアスな内容で、滝川広志の本名による初めての主演映画です。まさに命懸けの挑戦でした。

    人間は自分がこれまでどう生きてきたかを知ることで、これからどう生きたらいいかが見えてきます。その問いを死ぬ前まで持ち続けていくことで、いい人生が送れるのではないか。この映画をとおして、僕なりにそんなメッセージを伝えたいと思いました。

    これまで芸能生活で培ってきたものを、どのようにして後世に伝えていくか。これも僕がいま取り組んでいる挑戦の一つです。

    僕らの世代は「背中を見て覚えろ」とよく教えられたものですが、いまの若い子たちは「言われないから分からない」「聞いていないから知らない」といった言葉を平気で口にします。そんな子を見て「俺らの時代とは違う」と投げやりになるのは簡単ですが、自分たちがそういう時代に生きているんだ、という自覚を持たないといけないと僕は思うんです。

    どこかめたような若者の中にも向上心のある子、本気でぶつかってくる子がいます。僕はそんな子には、惜しげもなくものまねのネタを提供します。「え? ネタをばらしちゃうんですか」と驚く人もいます。だけど、僕は誰かにネタを提供することで、ものまねの世界が大きく発展していけばいいという考えです。何か権利があるわけではないし、伝えなかったら忘れられるだけ。そちらのほうが嫌じゃないですか? 俺の芸は俺だけのもの。これでは、やはり寂しいと思います。

    僕が、人とは少し違うこのような考え方をするようになったのはいつ頃からだろうか。そう考えていくと、一人の存在にぶつかります。それは母です。僕が子供の頃、我が家は大変な貧乏でしたが、母は愚痴ぐち一つこぼすことなく、女手一つで僕たちきょうだいを育ててくれました。

    傍目はためにはつらい状態にあっても、笑顔を絶やさない母がいてくれたおかげで僕たちはみじめだとか、貧乏だとか思わずに生きてこられました。母の生き方と教えは、僕の人生の原点となっています。

    ものまねタレント、俳優

    滝川広志(コロッケ)

    たきがわ・ひろし(コロッケ)

    昭和35年熊本県生まれ。55年日本テレビ系『お笑いスター誕生!』に出演し銅賞、銀賞を獲得し芸能界デビュー。ものまねのレパートリーは300を超える。2018年6月公開の映画『ゆずりは』で初めて主演を務めるほか、災害復興支援活動にも積極的に取り組み、8月9日には中野サンプラザホールで開催される「ものまねキャラバン」に出演。