2026年9月号
特集
めざすものを持つ
インタビュー②
  • 高知レスリングクラブ代表櫻井優史

高知を
レスリング王国へ

オリンピック金メダルは
かくして実現した

世界の強豪との激闘を制し、パリ2024オリンピックにて金メダルに輝いたレスリング選手の櫻井つぐみさんと清岡幸大郎さん。
その2人の金メダリストを幼少期から育ててきたのが、高知レスリングクラブ代表の櫻井優史氏である。「高知をレスリング王国に」という夢に向かって邁進する櫻井氏に、世界レベルの選手を育てる要諦、いま求められる指導者のあり方についてお話しいただいた。

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    高知レスリングクラブ代表

    櫻井優史

    さくらい・ゆうじ

    昭和50年香川県生まれ。高松北高校でレスリングを始め、高校三年時に国体のグレコローマン46㎏級で優勝。群馬大学教育学部卒業後、平成10年から高知県の県立高校の教員としてレスリングの指導に携わり、16年にジュニア選手を育成する高知レスリングクラブを設立。以後、パリ2024オリンピックで金メダルを獲得した櫻井つぐみ氏や清岡幸大郎氏をはじめ、数々のトップ選手を育てる。令和4年「龍馬賞」受賞。高知県移住支援特使。

    高知出身選手として92年ぶりの金メダル

    ──パリ2024オリンピックでは、櫻井さんが幼少期からレスリングを指導してこられたご息女のつぐみさん、清岡こうろうさんがそろって金メダルに輝きました。高知県出身選手としては、92年ぶりとなる快挙だそうですね。

    私が2004年に高知レスリングクラブを設立した時、つぐみは2歳、おさなじみの幸大郎は3歳でした。それから2人にレスリングを教えるようになって、オリンピック金メダルという夢に向かって約20年頑張ってきました。
    オリンピック金メダルは、つぐみと幸大郎の夢であり、私の夢でもありましたから、パリで見事にそれをかなえてくれた2人には本当に感謝しかありません。しかも初出場ながら揃って金メダルという奇跡のような快挙を成し遂げてくれた。長い年月をかけ積み上げてきたものをオリンピック金メダルというこれ以上ない結果として出し切ってくれて、指導者としてとても感慨深いものがあります。

    ──長年積み重ねてきた努力が最高の舞台で花開いたのですね。

    オリンピックは4年に1度の舞台ですから、プレッシャーは相当なものだったと思います。
    ただ、試合前、「いつも通りしっかり集中してやろう」と声を掛けたところ、2人とも本当に普段通りで、オリンピックの舞台を楽しもう、いつも通りやろうという雰囲気で試合に臨んでいました。そう自信を持てるだけの努力を積み重ねてきたということでしょう。実際、2人とも驚くくらい堂々とした、過去最高の戦いをしてくれました。

    ──いまは指導者としてどのようなことに力を入れていますか。

    やはり一つは第二、第三のつぐみ、幸大郎を育てるということですね。今年開催されるアジア競技大会の代表になった幸大郎の妹・清岡もえ、アンダー20で世界選手権二連覇を達成した西内ゆうなど、次のロサンゼルス2028オリンピックをめざしていく世代をまずしっかりサポートすること。
    それから、その下の世代では、アンダー17アジア選手権で3位に入った藤原しょう、アンダー15アジア選手権で二連覇したつぐみの妹(三女)つきのが、頑張って成長しています。彼ら彼女らがブリスベン2032オリンピックに出場し、金メダルを獲得できるように導いていくことも大事な目標です。

    ──次に世界を狙える選手が、どんどん育っているわけですね。

    うちのクラブは日本一ではなく、「世界で勝てるレスリング」を常に目標にしています。やはり世界をめざしたほうが子供たちの意識が全然違ってくるんです。それに、つぐみや幸大郎が世界の舞台で活躍しているのを見ると、後輩も「自分たちもできる!」と自己効力感が高まって、自然と世界を基準に頑張るようになります。
    例えば、つきのは小学生の時に全国優勝経験はなかったのですが、つぐみが世界選手権やオリンピックで優勝する姿を現地で見て、「自分はオリンピック二連覇する」というように意識が変わって、どんどん強くなっていきました。いまは引退して働いていますが、次女のはなのも、つぐみの背中を追いかけて練習し、アンダー17世界選手権で優勝した経験があります。
    ですから、もともとの素質より、育つ環境のほうが大事だというのが実感です。練習の時も子供たちの可能性を信じ、「つぐみや幸大郎ができたのだから、あなたたちもオリンピック金メダルをめざせるよ」と伝えています。

    パリ2024オリンピックで激戦を制し、金メダルに輝いた櫻井つぐみさんと清岡幸大郎さん ©朝日新聞社