2021年4月号
特集
稲盛和夫に学ぶ人間学
我が心の稲盛和夫④
  • 京都大学iPS細胞研究財団理事長山中伸弥

「常に全力疾走だ」
を肝に銘じて

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度肝を抜かれ、感激した贈呈式での出逢い

稲盛さんのことはもちろん以前からよく存じ上げていましたが、初めてお目にかかったのは2004年でした。

稲盛財団が運営する事業の1つに、国内の若手研究者を対象として独創的で優れた研究活動を助成する「稲盛研究助成」があります。厳正な審査のもと、数多くの応募者の中から毎年50名にそれぞれ100万円の研究助成金が交付されるのですが、幸いなことに私もその1人に選ばれ、贈呈式に出席したのです。

京都大学に移る前、奈良先端科学技術大学院大学に在籍し、現在のiPS細胞につながる、細胞の初期化に関わる遺伝子研究に邁進まいしんしていた42歳の時でした。一方稲盛さんは72歳。私の父親は昭和5年生まれで稲盛さんが昭和7年ですから、稲盛さんと私には親子ほどの年齢差があります。

贈呈式で驚いたのは、稲盛さんが50名の研究者一人ひとりと握手をしながら、「頑張ってください」と激励のお言葉を掛けられたことです。それまでも他の機関から研究助成金をいただいたことはあるものの、そこのトップ自らが全員と握手をしたり声を掛けたりすることはありませんでした。それだけに度肝を抜かれ、感激したことをいまもはっきり覚えています。

6年後の2010年には、「人工多能性幹細胞(iPS細胞)を誘導する技術の開発」に対して、京都賞(先端技術部門)をいただきました。京都賞というのは授賞式や記念講演会、ワークショップ、晩餐ばんさん会など関連行事が1週間ほど続き、その間、光栄にも稲盛さんとお話しする機会がたくさんありました。晩餐会では隣の席に座らせていただき、大変緊張しましたが、お酒を飲みながら随分優しく接してくださったおかげで、次第に緊張がほぐれたものです。

後日、ある会食の際には、稲盛さんが時々席を外されるのでどうされたのかなと思うと、別室でJリーグ・京都サンガFCの試合を一所懸命ご覧になっていたことがありました。おそらく大事な試合で、チーム発足時からスポンサーとして支援を続け、運営会社の名誉会長を務めておられる稲盛さんにとって、結果が気になって仕方なかったのでしょう。

もちろん経営者として非常に厳しい一面もお持ちですが、それだけではなく、お茶目で気さくな方であり、そういう人間的な魅力に非常にかれるものがありました。

京都大学iPS細胞研究財団理事長

山中伸弥

やまなか・しんや

昭和37年大阪府生まれ。62年神戸大学医学部卒業後、整形外科医を経て、研究の道に進む。平成5年大阪市立大学大学院医学研究科修了。アメリカ留学後、奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター教授、京都大学再生医科学研究所教授などを歴任し、22年より京都大学iPS細胞研究所所長。令和元年より京都大学iPS細胞研究財団理事長兼任。アルバート・ラスカー基礎医学研究賞、ウルフ賞、京都賞、ノーベル生理学・医学賞など受賞多数。稲盛和夫氏との共著に『賢く生きるより辛抱強いバカになれ』(朝日新聞出版)。