2022年11月号
特集
運鈍根
  • ブイネット代表松永暢史

国語力向上の秘訣は
日々の音読と読書にあり

「学力の根本は国語力にある」。約半世紀、個人家庭教師を生業として数多くの受験生を志望校に合格させてきたブイネット代表・松永暢史氏はそう語る。国語力をつけるには欠かせない名文の音読など、松永氏が長年の経験から編み出したメソッドの一端を伝授していただいた。

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『徒然草』の音読で国語力が著しく向上

個人家庭教師になって47年、いまも東京・杉並にある教室の一室で子供たちと接する毎日です。

いかなる組織にも属さず、個人家庭教師だけを半世紀にわたって続けてきたわけですが、そういうユニークな経歴を不思議に思う人もいらっしゃるかもしれません。私が家庭教師としてここまで続けてこられたのには一つの理由がありました。子供たちの国語力を高め、それと同時に他の教科の成績をアップさせ、志望校合格へと導いてきた実績です。

英語や数学の学力を飛躍的に高められる家庭教師はいます。しかし、国語力となるとどうでしょうか。私はほとんど耳にしたことがありません。私は国語力を高める様々なメソッドを開発し、それによって子供たちの学力を伸ばすことに成功。ありがたいことに、そのメソッドは社会的にも広く知られるようになりました。

実は、勉強ができないと言われる子供たちにはある共通点があります。言語了解能力が弱いことです。言語了解能力とはいわば物事を理解、表現する力のことで、これが即ち国語力です。その力が十分でないばかりに「僕は駄目だ」と言って、志望校への進学を断念してしまうケースがとても多く、逆に言えば言語の了解能力をつけてあげれば国語力だけでなく学力全体が飛躍的に伸びるのです。本当に駄目な子などいない。これまで約2,000人の子供たちと関わってきて得た、これが私の結論です。

そのことに気づくきっかけを与えてくれたのは、約20年以上前、知人の紹介で出会った中学2年生の男の子でした。それまで東大出の優秀な家庭教師を雇ったものの、成績がまったく振るわなかったといいます。初めて会った時、彼がプラモデルが大好きだと知り、プラモデルの話で雰囲気を盛り上げながら、やる気になったところで教科書を開かせ、まずはそれを読んでもらうことにしました。ところが、漢字どころか平仮名さえ満足に読めずに文意をつかみ取ることができない。これにはまいりました。

しばらく経ったある日、いつものように教科書を読ませようとすると「きょう学校で古文を読んでくるように言われたんだ。普通の文章でも読めないのに古文が読めるはずがない。僕はもう駄目」と机に突っ伏すのです。私は「現代文が読めないなら、古文も一緒だろ」と言って、言葉からは意味を掴み取れない彼のために、宿題として出された『徒然草つれづれぐさ』を一音一音切って読んでもらうことにしました。

「つ・れ・づ・れ・な・る・ま・ま・に・ひ・ぐ・ら・し・す・ず・り・に・む・か・い・て・こ・こ・ろ・に・う・つ・り・ゆ・く・よ・し・な・し・ご・と・を……」

私にとっては一つの思いつきに過ぎませんでした。ところが、これを数日間続けるうちに、ある変化が訪れました。『徒然草』の冒頭部分をよどみなく読めるようになって、学校でめられたというのです。古文から現代文の勉強に移った時には、現代文を何とか意味の通じる文章として読めるようになっていました。うまく読めないところは古文と同様、一音一音切って読ませることで、やがて現代文もスムーズに読めるようになっていきました。

『徒然草』の音読の継続は、彼の学力を劇的に変化させました。国語だけでなく他の教科の成績も上向きました。どの授業も日本語で行われているのですから、ある意味当たり前かもしれません。中学2年生までクラスでビリから2番目だった彼が、高校卒業時には東京6大学の一つに合格したというニュースはクラスメイトたちを大変驚かせたと聞いています。

彼だけではありません。特別支援学級に行くように指導された中学生が私の音読指導によって国語力を身につけ、見事に好成績を残せるようになっていったという例をこれまで数多く見てきました。

ブイネット代表

松永暢史

まつなが・のぶふみ

昭和32年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒。教育環境設定コンサルタント。受験のプロとして音読法、作文法、サイコロ学習法、短期英語学習法などのメソッドを開発。著書に万部のベストセラーになった『男の子を伸ばす母親は、ここが違う!』(扶桑社)の他、『将来の学力は10歳までの「読書量」で決まる!』(すばる舎)など多数。最新刊に『カタカムナ音読法』(ワニ・プラス)。