2020年7月号
特集
百折不撓
対談
  • (左)ジャーナリスト櫻井よしこ
  • (右)参議院議員青山繁晴

この未曽有の国難に
どう立ち向かうか

中国湖北省武漢市で発生した新型ウイルスは全世界を席巻し、いまも猖獗を極めている。感染者数は500万人を超え、死者数も34万人に達した。加えて、経済的な打撃も深刻だ。武漢ウイルスが発生した原因は何か、なぜ世界中に蔓延したか、目に見えないウイルスや中国の不穏な動きにどう対応すべきか、今後の世界の時流をいかに読み解くか。ジャーナリスト・櫻井よしこ氏と参議院議員・青山繁晴氏が問題の本質を鋭く突き、この危機を転じて未来を開くための指針を語り合う。

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パンデミックを引き起こしている原因

櫻井 中国は湖北こほく武漢ぶかん市で発生した新型ウイルスへの初期対応を誤り、中国全土のみならず世界全体にウイルスを蔓延まんえんさせました。その結果、世界の感染者は530万人、死者は34万人となり、日本の感染者は1万6,000人、死者は852人に上っています(5月25日時点)。

青山 櫻井先生もご承知の通り、人類とウイルスの闘いは歴史が長いんですけれども、いま生きている私たちが現実にここまでのパンデミック(世界的大流行)に向かい合うのは初めてなんですよね。
したがって、いまどういう状況なのかというのは、過去の記録と比較するしかありません。100年前に猖獗しょうけつを極めたスペイン風邪を含めてかなり膨大な記録があって、僕も危機管理の専門家の端くれとして克明に調べてきて、異様なウイルスとしか言い様がないんです。
まず一番問題なのは重症化に至った場合は、想像外にあっという間に亡くなる方がたくさんいらっしゃる。それを右側の重大事とすると、左側の重大事はまったく対照的に、症状がほとんど出ない方がいらっしゃる。
学者によっても実務的な専門家によってもとらえ方は異なるものの、総合して言うと、本人が自覚できないほどの軽症にすぎない人が約8割で、当然そういう人は普通に活動されますから、これがパンデミックを引き起こしている大きな原因になっているわけです。

櫻井 いま人との接触を8割減らさないと感染爆発が起こるということで、一部の人を除いてみんな一所懸命協力し、最近でこそ日本の新規感染者は日々2桁になっていますが、まだ予断を許しません。
4月の段階では、「どこそこの病院で集団感染した」という感染経路を辿たどれる人が全体の2割くらいで、あとの約8割は感染経路不明者です。私は最初、感染経路不明者って一体どういうことだろうと思っていました。町を歩いていて空気感染しちゃうのかって。

青山 空気感染はしないです。

櫻井 安倍総理が会見で「接待を伴う飲食」っておっしゃいましたよね。私はそう言われても最初はピンとこなかったんですけれども、よく聞いたらキャバクラとかナイトクラブとか、立憲民主党の議員が行ったような店だと。
それを知った時、なぜ日本はもっと情報をきちんと伝えることができないんだろうと思いました。個人のプライバシーとか営業の自由に重きを置き過ぎて、おおやけの利益がないがしろにされている。自分の軽率な行動が人の命を奪うやもしれないということを考えていかなければなりません。
韓国ではスマートフォンやクレジットカードの使用履歴等を用いて個人の位置情報を把握し、それによって感染経路不明者を2%程に抑えているそうです。韓国の実績を高く評価する人もいますが、そこまでプライバシーに関わる情報を把握され、活用されることを承知しておかなければなりません。
必要ならば政府がそこまでやるということについても、私たちはきちんと議論を交わすべきだろうと思います。

ジャーナリスト

櫻井よしこ

さくらい・よしこ

ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業後、「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局勤務。日本テレビニュースキャスター等を経て、現在はフリージャーナリスト。平成19年「国家基本問題研究所」を設立し、理事長に就任。23年日本再生に向けた精力的な言論活動が評価され、第26回正論大賞受賞。24年インターネット配信の「言論テレビ」創設、若い世代への情報発信に取り組む。著書多数。最新刊に『言語道断』(新潮社)がある。

感染を防ぐために心掛けるべきこと

青山 接待を伴う飲食っていうのはセクシャルなサービスだけではありません。例えば地域の商店街にあるようなスナック。マイクは感染源の一つですけど、ママがいつもマイクについた飛沫ひまつを吸っているのに、ママには自覚症状が出ない。でも、お客さんにはドッと発症することもあります。
他には例えば、履いているくつ、これが大きな感染源なんですよ。

櫻井 靴の底にウイルスがくっついている可能性があるんですね。

青山 はい。そもそもウイルスとは何かというと、生物と非生物の間にいる存在です。細胞がないのに遺伝子を持ち、突起で吸着して他の生物(宿主しゅくしゅ)の細胞に侵入し、自分の遺伝子を増やす。しかし、自己増殖はできないので、うつる相手がいなくなるとウイルスは存在できないんですね。
武漢ウイルスの恐ろしいところの一つは、例えば段ボールの表面には最低24時間、ステンレスで最低48時間、プラスチックだと最低72時間は感染力を保っていることです。
つまり、飛沫感染という言葉が独り歩きし過ぎたんですが、本当はモノを介した接触感染が多い。至近距離で話す時は飛沫を直接浴びますが、飛沫は落ちて至る所のモノに付着します。

櫻井 感染者の飛沫が付着したモノを触ることで感染してしまうと。

自衛隊は2,700人が参加した「ダイヤモンド・プリンセス号」をはじめ武漢ウイルス関連の派遣活動で1人の感染者も出していない。陸上自衛隊のHPには自衛隊式感染症予防が動画で紹介されている ©陸上自衛隊

青山 とは言っても、「机に触るな、靴も触るな」では生活できませんから、あとは日本人の民度の高さにすがるしかないんです。一つは玄関先で丁寧に対処する。危機の中では衣服も選んで固定気味にし、それはすぐ消毒して、リビングなどの家族が集まる部屋には持ち込まない。
ウイルスは自分で歩けず、何かに乗っからないと絶対に移動できませんので、玄関でとどめることも大切なんです。僕の場合は帰宅して即入浴し、全身を洗います。欧米で武漢ウイルスの死者が日本と比較にならず多い理由の一つは生活習慣の差です。玄関で靴を脱がず、土足で家の中に入る。これが接触感染のもとをつくるんです。
それから例えばマスクの付け外しやズレの直し方、これは常識ですけど、マスクの表面は絶対触っちゃいけない。必ず耳のゴムひもを持ってやらないといけない。
密閉に近い空間に感染者の飛沫が漂っていると、エアロゾル(気体中に微小な液体または固体の粒子が浮遊している)状態になっていますから、そこで呼吸をするとマスクの表面にウイルスが大量に付着するんです。そのマスクの表面をつかんだ手で目をこすったり、口を触ったりしたら……。そのことを意識してもらいたいです。

櫻井 第2波に備えて、やっぱりできるだけ多くの人にそういった正確な情報を理解してもらい、一人ひとりが感染防止に努めていくことが何よりも大事ですね。

参議院議員

青山繁晴

あおやま・しげはる

昭和27年兵庫県生まれ。慶應義塾大学文学部中退、早稲田大学政治経済学部卒業。共同通信社記者、三菱総合研究所研究員を経て、平成14年独立総合研究所を創立し、代表取締役社長兼首席研究員に就任。28年参議院議員に当選。「日本の尊厳と国益を護る会」代表。東京大学と近畿大学で教鞭も執る。著書多数。最新刊に『その通りになる王道日本、覇道中国、火道米国』(扶桑社新書)がある。