2021年1月号
特集
運命をひらく
インタビュー③
  • サントリーグローバルイノベーションセンター上席研究員田中良和

不可能を可能にした
青いバラプロジェクト

自然界には存在せず、長年不可能の代名詞といわれてきた「青いバラ」。開発に成功し、商品化に至るまで実に19年の歳月を要した長い挑戦だった。その道程には、サントリーのDNAとも言える「やってみなはれ精神」があったという。研究開発のプロジェクトリーダーを務めた田中良和氏が語る開発の道のりから、運命をひらく秘訣に迫る。

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やってみなはれ精神で実現した青いバラ

——田中さんが開発された青いバラは、長年「不可能」といわれてきたものだったそうですね。

ええ。英語でブルーローズというと、「不可能」「存在しないもの」などを表し、そこから転じて「あり得ないもの」「できない相談」を意味する語句でした。
アジサイや朝顔など、自然界に青い花はいくつもありますが、バラには長い間、青い色は存在しなかったのです。「切り花の女王」と呼ばれるくらいバラは重要な花で、商業的にも高く評価されています。そのため、不可能の代名詞といわれながらも人類のあこがれといいますか、世界中の育種家いくしゅかや研究者がしのぎを削って開発に挑んでいたんです。
ご存じの方も多いでしょうが、サントリーといえば「やってみなはれ精神」です。「やってみなはれ。やらなわからしまへんで」が創業者・鳥井とりい信治郎の口癖で、未知の分野へ果敢かかんに挑戦することがサントリーグループのDNAとなっています。この精神に基づき、青いバラは開発されました。

——ああ、やってみなはれ精神で。

サントリーが開発した青いバラは「アプローズ」(喝采かっさい)というブランド名で、チャレンジする人の応援や感謝の気持ちを伝える時、プロポーズといった特別な場面で使用していただいています。不可能といわれた青いバラを可能にしたという意味も込めて、花言葉は「夢 かなう」となっています。栽培に関しては企業秘密の部分も多いのですが、1本3,000円で年間2万本程度販売しています。

——1本3,000円。

ちまたでは真っ青の安価なバラも販売されていますが、それらはインクで染めているか、スプレーでコーティングされたバラです。着色してしまえば何色にもなりますから、レインボーのバラなんていうのもあります。しかし、純粋に生物として青いバラを実現できたのは、世界中でサントリーが開発したバラだけなんです。

サントリーグローバルイノベーションセンター上席研究員

田中良和

たなか・よしかず

昭和34年兵庫県生まれ。58年大阪大学大学院理学研究科修士課程修了、サントリー入社。63年同大学にて理学博士号を取得。平成2年から青バラの開発プロジェクトに参画し、4年間、オーストラリアに駐在。帰国後、植物科学研究所長などを経て、25年より現職。