2021年1月号
特集
運命をひらく
インタビュー②
  • 画家水上卓哉

芸術の力で人々に
癒しと感動を与えたい

幼少期の交通事故の後遺症と向き合いながら、人々の心を癒し感動させる絵を描き続けている若き画家・水上卓哉氏、30歳。後遺症や様々な困難にも決して屈することなく努力を重ね、画家になるという夢を実現してきた水上氏に、これまでの歩み、自らの運命を切りひらくヒントを語っていただいた。

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ONENESS命はすべて一つ

——水上さんは、幼い頃の交通事故による後遺症(体の麻痺まひや高次脳機能障害など)と向き合いながらも、画家として人々の胸を打つ素晴らしい絵を数多く描いてこられました。最近はどのようなテーマに取り組んでいるのですか。

今年の興味といえば、やはり泥火山でいかざん、地層です。地球の息づくエネルギー、地層をテーマに描いています。つい先週、秋田県の泥火山を見に行ったばかりなんです。その泥火山は、今年初めにテレビで知ってからずーっと行きたい、見たいと思っていました。

——実際にその泥火山を見て、何か感じることはありましたか。

地球は生きている……地球はまだ若々しい星なんだなと感じました。私は地層の露頭ろとうや自然研究路などに取材に出かけて、モチーフの声を聴いて、そこで言語ではないやり取りをするんです。

——ああ、声なき声を聴く。

そもそも私が地層に興味を持つようになったのは、大学時代に受けた自然学、環境学の授業がきっかけでした。授業で先生が「人間がこの地球を上手に使えば、資源は枯渇こかつしないし、あと5億年は大丈夫かもしれない」とおっしゃって、強烈な印象を受けたんです。また、いまの世の中だけでなく、200年先のことを考えて生きる大切さも授業で学びました。
それから私は、〝ONENESSワンネス(一つであること)〟を制作のテーマにするようになったんですね。

シェル美術賞2018 入選作品『Blue Eyes(ピラルク)』(2018)162cm×130.3cm)。“ONENESS”をテーマに命の輝きを描いた

——ONENESS、一つであること。

ONENESSというのは、200年後の子孫、7代先の子孫にまで美しい地球を残すためにいま私たちは何をすべきかを考えよう、というネイティブアメリカンに伝わる教えでもあります。人も虫も花も動物も、一つの地球に生きる一つの命にすぎない。人間だけが資源を採り過ぎたり、汚し過ぎたり、使い過ぎてはいないかを考える。私はその大切さを伝えることを使命に絵を描いているんです。

——このギャラリーには魚や虫など、生き物を描いた作品も多く展示されています。これもONENESSのテーマを表現されていると。

ええ、「生き物シリーズ」と呼んでいますが、自然の生き物のほうが人間よりも地球のために正しく生きているように思うんですよ。「この魚は誰にもびていない、いい顔しているなぁ」と言いながら、いつも描いています(笑)。
いまの新型コロナウイルスの蔓延まんえんもおそらく地球から人類への警告なのでしょう。自分のことばかり考えたり、誰かを犠牲にしてもうけたり、資源を使い過ぎて環境を破壊したり、人間がやりたい放題する時代は終わったんだと。今回のコロナでそのことに一人ひとりが気づき、生き方を選び直していけるかどうかに私たちの運命も掛かっているように感じます。

画家

水上卓哉

みずかみ・たくや

平成2年愛知県生まれ。12歳の時の交通事故が原因で障碍が残る。29年京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)大学院芸術研究科(通信教育)芸術環境専攻修士課程美術・工芸領域洋画分野修了。現代美術家協会、名古屋商工会議所会員。22年に初個展「はじめの一歩」を名古屋で、翌年に個展「ひと筆の祈り」を東京・銀座で開催。「シェル美術賞2016、2018」「FACE2019 損保ジャパン日本興亜美術賞」などに入選。「Galeria 卓」(愛知県清須市)にて作品を制作・展示。令和3年1月13日から19日まで名古屋三越栄店にて『VOICE 地球の声をきく 水上卓哉絵画展』を開催予定。