2021年3月号
特集
名作に心を洗う
我が心の名作⑤
  • グロービス経営大学院常務理事村尾佳子

田坂広志『なぜ、我々は
マネジメントの道を歩むのか』
&森 信三『修身教授録』

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仕事の報酬は人間としての成長

名作の素晴らしさは、偉大な先人や優れた先輩方が一生かけて会得した教えを、一冊の本を読むことで学べる点にあると思います。

私がこれまで読んできた本の中で大きな影響を受けてきたのは、シンクタンク・ソフィアバンクの代表を務める田坂広志さん、そして教育者・森信三しんぞう先生のご著書です。人生や仕事で壁にぶつかる度に手に取り、貴重な示唆しさをいただいてきたお二人のご著書こそは、私にとっては紛れもない名作なのです。

私のキャリアの始まりは、大手旅行会社の営業職でした。仕事を通じて社会に貢献したい、人に感謝される仕事をしたいという思いで、毎日ベストを尽くして頑張っていました。ところが、自分の頑張りが社内で十分認められなかったり、お客様によかれと思ってやったことが先方に十分伝わらなかったりで、「仕事っていったい何なのだろう?」と疑問ばかりが募っていきました。

5年で転職して別の仕事を手掛けたものの、やはり、同じような壁に突き当たり、100%納得のいく仕事はないのかもしれない、というむなしさにさいなまれていました。

そんな折に出合ったのが、田坂さんの『仕事の思想』でした。この本を通じて「仕事の報酬は人間としての成長」という考え方を学んだおかげでいまの私がある、と言っても過言ではありません。

その後、縁あって19年前に社会人を対象にしたビジネススクールを経営するグロービスへ転じ、リーダーの育成に関わるようになりました。もともと教育にまったく関心のなかった私がこの転身を果たしたのは、講座を受講してくださる方々のお役に立ち、社会に貢献していくことを通じて、自分自身も人間として成長していきたいという強い思いがあったからです。

当社でディレクターに就任し、マネジメントの一端を担うようになったのは30代半ばでした。部下の給与や配属など、人事に関するすべての責任を負う立場になったものの、当時はまだそれに見合った実力が十分身についておらず、重責に自分を見失いそうになることもしばしばでした。部下へ勝手に高度な期待を寄せて裏切られた気持ちになるなど、不甲斐ない自分にもどかしさをつのらせ、マネジメントに関わることの大変さを身に染みて痛感させられました。

そんな私を導いてくれたのもまた田坂さんの本でした。ちょうどその頃、田坂さんの著書『なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか』を手に取ったのですが、冒頭に掲げられた「なぜ、あなたは、自ら『重荷』を背負うのか」という言葉に、まるで自分の心境を言い当てられたかのようなインパクト、衝撃を受けたのです。

なぜ、我われはマネジメントの道を歩むのか。なぜ、あなたは、自ら「重荷」を背負うのか――私が求めていたのはまさしくこれらの問いに対する答えであり、救いを求めるような思いで読み進めたことをいまでも覚えています。

グロービス経営大学院常務理事

村尾佳子

むらお・けいこ

大阪府生まれ。関西学院大学社会学部卒業。グロービス・オリジナル・MBAプログラム(GDBA)修了。大阪市立大学大学院創造都市研究科都市政策修士。高知工科大学大学院工学研究科博士後期課程修了(博士(学術))。大手旅行会社などを経てグロービスに参画。同校の経営、教員を務める傍ら、NPOの育成にも携わる。著書に『グロービス流キャリアをつくる技術と戦略』(東洋経済新報社)。