2019年6月号
特集
看脚下
インタビュー③
  • よろず相談研究所所長玄 秀盛

たった一人のあなたを救う

DV、ストーカー、引きこもり、自殺、虐待……。東京の大歓楽街で、様々な問題を抱えた人に年中無休で手を差し伸べ続けている玄 秀盛氏。解決困難な相談事にも臆することなく、体を張って立ち向かう氏を突き動かすものは何か。波乱の半生を交え、その志の原点を伺った。

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    問題を抱えた人の相談に年中無休で応え続ける

    ——げんさんは東京の歌舞伎町かぶきちょうで、様々な問題を抱えた人の救済活動に尽力なさっているそうですね。

    日本の歓楽街のど真ん中で、命というものをひたすら見つめながら頑張ってきました。この活動を始めてもう17年になるけど、相談に乗ってきた人は優に5万人は超えてるやろな。

    ——5万人とは、途轍とてつもない人数です。

    いろんな人が相談に来るよ。サラ金の取り立てに追われる人から、足抜けできない暴力団員、風俗店で労働をいられている女性、夫のDVで体中あざだらけの主婦、苛め、ストーカー、引きこもり、自殺、虐待……。
    うちは駆け込み寺やから、来る者こままず。年中無休ですべて受け入れています。以前は24時間態勢でやってきたけど、俺も今年で63やし、さすがにそこまでやると壊れちゃう(笑)。それでもなんとかこの場所をなくさないように毎日12時間、ハーフタイムで頑張っているんです。

    ——あぁ、お休みもなしに。

    皆やっとの思いで助けを求めて来るんやから、いつでもよう来たなと招き入れる。感情が高ぶっていたら、「まぁ座ってから話そうや」とお茶でも飲んでもらえば、気持ちも落ち着いてくるんです。
    以前相談に来た60代の女性は、定年退職した旦那だんなの激しい暴力に悩んでいました。近所に出掛けようとするだけで「どこへ行く」と不機嫌になり、ますます乱暴になる。旦那の声を聞いただけで体が震えると言うて、真剣に自立を求めていた。そこで俺は、旦那にバレないように家を抜け出す手助けをして、住み込みの仕事を紹介しました。家には本人がしたためた「もうあなたの家政婦ではありません」という一文と、俺の連絡先だけ残してな。納得のいかない旦那は、居場所を突き止めて引き戻そうとしたけど、女性の意志は変わらんかった。彼女はいま元気に働いていますよ。

    それから、刑務所を出て真面目まじめに働いていた男性は、「兄貴分が近く出所するから迎えに来い」と連絡を受けて悩んでいました。その兄貴分には昔随分世話になったけど、いまは妻子もいて、せっかく掴んだ幸せな生活を壊したくない。その男性には、俺の名を使えと言いました。「出所した後、歌舞伎町の玄さんという人に大変世話になって、人間になりますと一筆入れてある」と先方に伝えて、一切接触するなと。結局先方はうちのことを聞き知って、「好きにせぇ」で沙汰止さたやみになったんです。

    よろず相談研究所所長

    玄 秀盛

    げん・ひでもり

    昭和31年大阪府大阪市生まれ。様々な職業、事業を経て、平成2年天台宗酒井雄哉大阿闍梨の元で得度。14年暴力や金銭トラブルなど多様な問題を抱えた人たちを救済する「NPO法人日本ソーシャルマイノリティ協会」を設立。24年公益社団法人日本駆け込み寺に組織変更。26年出所者支援のため一般社団法人再チャレンジ支援機構設立。29年よろず相談研究所設立。著書に『悩み方、違ってます!』(幻冬舎)『もう大丈夫』(KKロングセラーズ)など。