2019年6月号
特集
看脚下
インタビュー②
  • 日本朗読検定協会認定プロフェッサー和貝晴美

音読で心の中に家を建てる

重度の体調不良がもとで仕事を失い、さらに離婚、生活困窮と、幾重もの試練に見舞われていた和貝晴美さん。奈落の底で見出した一筋の光明が〝音読〟だった。音読を通じて新しい人生を切り拓いてきた和貝さんに、ご自身の体験を交えながら、音読の魅力やその効果についてお話しいただいた。

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音読教室で人と柔らかに繋がる

——和貝さんは、アナウンサーのご経歴を生かして、大阪で一般向けの音読教室をなさっているそうですね。

はい。私の主宰する教室や東淀川区の高齢者福祉施設で、皆さんと一緒に文章を声に出して読む喜びを分かち合っています。
最初は自作のテキストを使っていたんですけれど、致知出版社さんから出た『楽しみながら1分で脳を鍛える速音読』を見たら、文字が大きくて読みやすいし、文章も長過ぎないし、これまで知らなかったいろんな名文に触れられる。これはいいと思って使い始めました。皆さんも「わくわくする」ってとても喜んでくださっているんですよ。
それと、教室に通ってこられるのは60代、70代の方が多いのですが、この速音読が認知症患者に「劇薬」とさえいえるほどよく効くと書かれているのを知って、グッと意欲的になられました。

——教室では、どのような形で指導なさっているのですか。

まず全員が仲よくなるように、バカ踊り体操というのをやります。民謡の先生に教わったものを私流にアレンジしたものですけど、全員が変な顔をしてバカになって踊るので、教室の空気がパッと明るくなって、お互いがあっと言う間に打ち解けるんですよ。続いて舌がなめらかに動くように母音の練習と、歌舞伎で有名な「外郎売ういろううり」の口上をやった後、3、4人ずつのグループに分かれてテキストの音読を始めます。
チーム内でパート分けをして、まず初見の状態で時間を計りながら読みます。そして講師の全体音読を聞いてもらい、各自5分ほど練習をした後、もう一度時間を計りながら読みます。2回目は読むのが速くなって、「11秒短縮!」「やったーっ!」といった声があちこちから挙がって、ワッと盛り上がるんですよ(笑)。

——とても楽しそうですね。

正直言って、最初はどなたも音読に対するモチベーションってそんなに高くないんです。でも、私自身に音読から電流が走るような感動を与えられた体験があって、いつも本当に楽しそうに読むので、それがどんどん伝染していくようです(笑)。
私は朗読の指導もしているのですが、音読は技術習得から解放されているせいか、読むほうも聞くほうもよりリラックスされていて、同じ作品を数行ずつ音読していくことで、一人ひとりの声の個性がよい形でクローズアップされると感じます。お互いの声で名文に触れることで、お互いの人生をどこか尊重する空気が生まれるんです。
名文に触れると会話の内容も変わってくるんですよ。各々が内に秘めている人生体験がちょっとした感想に表れて、そこから新鮮な会話に発展します。そして、お互いに頑張ってきたねっていつくしみ合う空気で教室が包まれていく。音読をやっていてよかったなぁって実感できる瞬間です。教室では、忙しい毎日や世間の喧騒けんそうをひと時忘れて、お互いが柔らかにつながり合える時間と空間を提供したいというのが、私の思いなんです。

日本朗読検定協会認定プロフェッサー

和貝晴美

わがい・はるみ

昭和39年大阪府生まれ。高校卒業後、クラブやレストランで歌手を経験したのち、平成4年日本短波放送に株式市況担当アナウンサーとして採用される。退社後、司会進行役、ナレーター、朗読ボランティア入門講師などフリーランスで活動。18年に鬱病を発症して失業となり、以来10年以上、2人の子供を育てながら治療、療養生活を続ける。療養後期に行った朝の音読により、体調が大きく改善したことから音読の効果と可能性を実感。現在日本朗読検定協会認定プロフェッサーとして、音読教室、朗読教室を開催中。