2024年1月号
特集
人生の大事
インタビュー②
  • 神奈川県警察剣道名誉師範、剣道範士八段宮崎正裕

剣道が教えてくれた
勝ち続ける要諦

強豪ひしめく全日本剣道選手権大会で史上最多の6度優勝、さらには史上初の2連覇(2度)という偉業を成した神奈川県警察剣道名誉師範の宮崎正裕氏。今年(2023年)5月には、剣道家として最高位である範士八段の称号を授与された。60歳になるいまもなお道場で剣を交え、後進を教え導き、日本剣道界を牽引し続けている。剣一筋50余年の歩みから宮崎氏が掴んだ勝ち続けるための要諦、そして人生を勝利に導く大事とは――。

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剣道が自分を生かしてくれた

──宮崎さんは今年(2023年)5月に、剣道の最高段位であるはん8段審査に合格されました。まずは現在の心境をお聞かせいただけますか。

ひと言で言えば、これまで剣道を辞めなくて本当によかったという思いですね。小学1年生で剣道を始めた頃のことを思い起こすと、剣道を辞めたいという気持ちのほうが強くありました。しかしその時々に両親や師匠、いろんな方々に支えられ、続けていく中で次第に剣道の素晴らしさや達成感を実感するようになり、気がつけば剣道に引っ張ってもらうといいますか、生かされるような形でここまで歩んできました。
ですから、今年60歳で定年退職を迎えると共に、範士8段の称号をいただいた時には、剣道への心からの感謝が込み上げてきました。自分が範士8段なんてとても信じられないことですよ……。

──日本剣道界、後進の範となる立場として、今後どのようなことに取り組んでいきたいですか。

範士になったからといって、突然偉くなったわけでもないですし、いままで通りの自分でいいのかなと思っています。いま心掛けているのは、やれる限り道場に1回でも多く立って、1本でも多く稽古を積むことです。これは信条でもあります。その中で範士に合格する条件である基本、風格や品格を含め、何歳になってもまだまだ頑張れる、進化・成長できるんだぞという後ろ姿を、1人の剣道家として、また、後進を指導する立場として見せ続けていければ本望ですね。「あの人はいったいいつまで稽古しているんだろう」と、周りに思ってもらえるくらいがちょうどいいのかもしれません。

──剣の道に終わりはないと。

ええ。実際、直接つかみ合う柔道などと違い、竹刀を媒介とする剣道は間合いの勝負になりますから、例えばインターハイに出るような高校生が、80歳を越える先生に打たれても何ら不思議ではない。その時その時の年齢で到達できるものがありますし、指導者としても課題は尽きません。ですから、「剣道に始まりはあっても、終わりはない」とよく言われるように、私も競技者としての引退はあっても、剣道家としての引退は永遠にないとの気概で、剣の道を究めるべく、これからもより一層の稽古に励んでいく思いです。

神奈川県警察剣道名誉師範、剣道範士8段

宮崎正裕

みやざき・まさひろ

昭和38年神奈川県生まれ。東海大付属相模高校を卒業後、神奈川県警に奉職。以後、史上最多の全日本剣道選手権大会優勝6回(2度の連覇含む)、世界選手権大会個人優勝、全国警察剣道選手権優勝、世界選手権団体優勝、全国警察剣道選手権大会団体優勝、全日本選抜七段選手権優勝、全日本選抜八段優勝大会優勝(2連覇)など前人未到の戦績を残す。神奈川県警察剣道首席師範を経て現在は剣道名誉師範。令和5年剣道範士八段。第15~18回世界選手権女子日本代表監督。指導者としても5人の日本一(全日本剣道選手権優勝者)を育てる。著書に『勝ち続ける技術』(サンマーク出版)。