2016年5月号
特集
視座を高める
一人称
  • 早稲田大学教授池田雅之

小泉八雲
が目指したもの

日本がまさに西洋化の波に呑み込まれつつあった明治時代——。失われゆく古きよき日本の心を、独特な感性と偏見のない公平な視座を持って、克明に書き記し続けたアイルランドとギリシアの血を引く小泉八雲。その波瀾に満ちた生涯と、いまを生きる私たちに遺したメッセージを、30年以上にわたって八雲と向き合い続けてきた早稲田大学教授の池田雅之氏に語っていただいた。

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失われゆく日本の心を見つめ続けた八雲

小泉八雲は、イギリス人ラフカディオ・ハーンとして1890年に来日し、その6年後に日本に帰化、54年の生涯を日本人として終えた文学者・教育者です。

「耳なし芳一」や「雪女」などを収めた『怪談』の作者として、ご存じの方も多いことでしょう。しかし、八雲はそれだけでなく、紀行文やエッセイ、評論などを通じて、西洋化の波に呑み込まれる直前の、慎ましく誠実な日本人の暮らしぶり、暮らしに息づく信仰心、美しい自然などを克明に私たちに書き残してくれているのです。

外国人だった八雲の目をとおして描かれる日本を知ることで、いま一度、日本文化とは、日本人とは何かを見つめ直すことができるように思います。そして、様々な文化的背景を持っていた八雲は、異文化に対して柔らかく公平な、独特な視点を持っていました。そのような視点は、世界各地で様々な文化・文明間の対立が起きている現代社会において、極めて示唆に富むものと言えるでしょう。

海の向こうからはるばるやってきた八雲は、日本をどう眺め、何に心を動かし、何を描き、何を目指したのか。本稿では、八雲の人生と作品を辿りながら、その一端をご紹介できればと思います。

早稲田大学教授

池田雅之

いけだ・まさゆき

昭和21年三重県生まれ。早稲田大学英文科卒業後、明治大学大学院文学研究科英米文学博士課程満期退学。早稲田大学教授。専門は比較文学、比較基層文化論。著書に『ラフカディオ・ハーンの日本』(角川選書)、編著に『古事記と小泉八雲』(かまくら春秋社)、翻訳にラフカディオ・ハーン『新編日本の面影』『新編日本の面影Ⅱ』『新編日本の怪談』(いずれも角川ソフィア文庫)など多数。