2023年3月号
特集
一心万変に応ず
インタビュー②
  • 元総合格闘家大山峻護

すべてを力に

人生に無駄なことは何一つない

満身創痍になりながらも、世界の強豪相手に真っ向勝負のファイトスタイルを貫き、多くのファンを沸かせた元総合格闘家の大山峻護氏。引退後は企業向け研修「ファイトネス」の普及や書籍の出版などを通じて、誰もが健康で笑顔になれる社会の実現に奔走している。壮絶な格闘技人生から氏が掴んだ心の力、充実した人生を生きる要諦をお話しいただいた。

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「ファイトネス」で幸せな社会を実現する

——大山さんは総合格闘家としての経験を生かし、独自の企業研修プログラム・ファイトネスの普及に尽力されているそうですね。

私は2014年、40歳の時に総合格闘技の現役を引退したのですが、それまで13年、ずーっと格闘技だけで生きてきましたから、セカンドキャリアについて何も考えていなかったんです。
で、引退していきなり社会に出ることになったわけですが、「わあ、現役終わった後のほうが人生長いじゃないか」「どう生きていけばいいんだ」とがくぜんとしましてね。

——現役を引退して何を目的に生きていけばよいか分からなくなってしまった。

物心ついた頃から柔道を始め、格闘技の世界に入り、常に目の前に目標があることが当たり前の人生でしたから、生まれて初めて目標がなくなって、このままではノイローゼになるというところまで精神的に落ち込みました。
でも、何とかしなければいけないと奮起し、携帯電話に登録してあった経営者の方の番号に「自分は社会人白帯なので、アドバイスください!」って片っ端から電話を掛け、ひたすらいろいろな人に会いに行きました。その中である方が、厚生労働省が「労働安全衛生法」を改正し、50人以上の従業員がいる会社にストレスチェックを義務づける、世の中にストレスで元気がない人が増えているという情報をくださったんです。
それで格闘技はストレス解消になるんじゃないか、社員さんを元気にできればこんなに最高なことはないなとひらめいて、格闘技とフィットネスを融合させたファイトネスを始めることにしたんです。人生の新たな目標が生まれたことがもう嬉しくて、再びぐあーっと心に火が燃え上がってきました。

——新たな目標に向かって心を燃やしまいしんしていかれたのですね。

それから着たこともなかったスーツを着て、「格闘技とフィットネスを融合した研修プログラムをやりませんか」と、企業に飛び込み営業ですよ。最初は知人の会社からでしたが、いまでは100社以上に導入していただいて、多くの喜びの声をいただいています。

——100社以上。それはすごい。

格闘技とフィットネスを融合した「ファイトネス」。人々の健康と幸せの実現のためにその普及と実践に取り組む大山氏

私の頭の中には、ファイトネスの実践により社員さんが元気で笑顔になる映像が鮮明に描けていました。その熱意が営業のプレゼンの際に担当者の方に伝わったのだと思います。明確な目標を決め、戦略を考え、後は自分を信じて全力でやり抜くマインド。格闘技で培った力は、実社会でも十分役に立つことを実感しました。
引退後に解説者や指導者になれる格闘家、アスリートはごく一部で、ほとんどが関係ない仕事に就かざるを得ないのが現実です。でも、現役時代につちかったものは、他のフィールドにおいても非常に大きな強みになるんです。そのことを後輩たちにも自分の姿を通じて伝えていきたいなと思います。

——「ファイトネス」は具体的にはどのような研修なのですか。

格闘技といっても、本当にゲーム感覚で楽しく取り組めるプログラムなんです。例えば、ミット打ちで、お互いにパンチを出して受け止める、それに対して「いまのいいね!」とプラスの声掛けを繰り返していくことで、心が前向きになり、それぞれのパフォーマンスがどんどんよくなっていくんですね。このプラスの循環をつくっていくことが本当のコミュニケーションであり、チームビルディングだと私は思っています。
座学で教えてもいまいちピンとこないかもしれませんが、実際に体を動かしながら、同じ空間で同じ喜びを体験・共有することで、皆さんすごくよく理解してくださるんです。「社員がこんなにイキイキ笑顔になるのを初めて見た」とおっしゃる社長さんもいます。

——ファイトネスの輪が広がっていくことで、より健康で笑顔あふれる社会が実現できそうですね。

一人でも多くの人を笑顔に幸せにする。それが私のセカンドキャリアの使命だと感じています。研修事業の他にも、2020年にYou-Do協会を立ち上げ、アスリートと障がいを持つ子供や児童養護施設の子供たちをつなぎ、交流を深める社会活動にも取り組んでいます。40歳まで格闘技の世界で思いっきり好きなようにさせてもらいましたから、残り半分は社会に貢献する、恩返しの人生だと思っています。

元総合格闘家

大山峻護

おおやま・しゅんご

昭和49年神奈川県生まれ。5歳から柔道を始め、中学2年生で講道学舎に入る。平成5年作新学院高等学校卒業、9年国際武道大学卒業。10年第28回全日本実業柔道個人選手権大会・男子81kg級優勝。13年柔道選手からプロ格闘家に転身。22年「マーシャルコンバット」ライトヘビー級タイトルマッチ王座獲得、24年初代ROAD FCミドル級王座獲得。26年現役引退。現在は格闘技を応用した研修プログラム「ファイトネス」を通じて、教育機関や企業などでチームビルディング、メンタルタフネスに尽力している。また、令和2年に一般社団法人You-Do協会を立ち上げ、アスリートと児童養護施設等の子供たちを繋ぐ活動にも取り組む。著書に『ビジネスエリートがやっているファイトネス』(あさ出版)などがある。