2021年4月号
特集
稲盛和夫に学ぶ人間学
特別講演
  • 京セラ名誉会長稲盛和夫

君の思いは必ず実現する

未来を生きる君たちへ

2014年10月4日、稲盛和夫氏は講演のため、母校である鹿児島玉龍高校を訪れた。久しぶりの母校で在校生を前にした稲盛氏は、自らの人生経験や経営経験を踏まえながら、「君の思いは必ず実現する」というテーマで人間の持つ「思い」の力の強さ、大きさ、素晴らしさを生徒たちに向かって熱く真剣に語りかけた。高校生のみならず、未来を生きるすべての人に指針となる人生の要諦を説いた名講演をここに紹介する。

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すべては自分の「思い」がつくり出している

本日は、「君の思いは必ず実現する」というテーマで、人間が心に抱く「思い」がどのくらい素晴らしい力を持っているのかということについて、お話ししていきたいと思っています。

なぜなら、私はこれまでの82年にわたる人生を通じて、心にどのような「思い」を抱くかで、人生そのものが決まっていくのだということを幾度も経験してきましたし、そのことはこの世の真理であると確信しているからです。

それでは、まず人間が「思う」ということは一体どういうことなのか、ということから考えてみたいと思います。

我われは一般に、物事を論理的に組み立てたり、頭で推理推論したりすることが大切であり、「思う」ということは誰にでもできることなので、たいしたことではないととらえています。しかし、この「思う」ということは、論理的に推理推論したりすることよりもはるかに大事なものなのです。我われが生きていく中で、この「思う」ということほど大きな力を持つものはないと私は信じています。

きょうお集まりの在校生の皆さんも、勉強ができる、頭がよいということが大事であると思われているかもしれません。もちろん、それもとても大事なことですが、心にどのようなことを「思う」かということはそれよりも遥かに大事なことです。しかし、そのことに多くの人は気がついていません。

実は、この「思う」ということが、人間のすべての行動の源、基本になっているのです。

そのことは、2つの側面から捉えることができます。まず、我われが毎日の生活を送る中で抱く「思い」の集積されたものが、我われの人間性、人柄、人格をつくり出しています。「自分だけよければいい」という、えげつない「思い」をずっと巡らせている人は、その「思い」と同じ、えげつない人間性、人柄、人格になっていきます。逆に、思いやりに満ちた優しい「思い」を抱いている人は、知らず知らずのうちに、思いやりにあふれた人間性、人柄、人格になっていきます。

「思い」というのは、ことほどさように非常に大きな影響を我われに及ぼしているわけです。

さらに、「思い」はもう1つ、大きな役割を持っています。それは、「思い」の集積されたものが、その人に合ったような境遇をつくっていく、ということです。あるいは、「思い」の集積されたものが、その人の運命をつくっていると言っても過言ではありません。

いまから100年ほど前に活躍したイギリスの哲学者ジェームズ・アレンは、「人間は思いの主人であり、人格の制作者であり、環境と運命の設計者である」と言っています。その人の周囲に何が起こっており、現在どんな境遇にあるのか。それはまさに、いままでその人がずっと心に抱いてきた「思い」が集積されたものです。ですから、「私は不幸な運命のもとに生まれた人間なんだ」とひがんだところで、何の意味もありません。その運命は他人が押しつけたものでもなければ、自然がもたらしたものでもなく、他でもない自分自身の「思い」がつくり出すものだからです。

家族との関係、隣人との関係、仲間同士との関係など、人間関係のすべては自分の心の反映なのです。「自分の周りには意地悪な人、だましたりする人、悪さをする人がたくさんいる」と我われはついつい思ってしまうのですが、それも自分自身の心の反映なのです。

多くの宗教家や聖人、賢人が皆そういうことをおっしゃっているのですが、誰も自分が抱く「思い」にそれほど大きなパワーが秘められているとは信じていません。しかし、信じていなくても、実際には人生の結果も、人間関係も、地域社会との関係も、すべては自分の「思い」がつくり出しているものなのです。

京セラ名誉会長

稲盛和夫

昭和7年鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。34年京都セラミック(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、平成9年より名誉会長。昭和59年には第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任、平成13年より最高顧問。22年には日本航空会長に就任し、27年より名誉顧問。昭和59年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰している。また、若手経営者のための経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注いできた(令和元年12月に閉塾)。著書に『人生と経営』『「成功」と「失敗」の法則』『成功の要諦』、共著に『何のために生きるのか(四六判・新書判)』(いずれも致知出版社)など。