2017年1月号
特集
青雲の志
対談
  • 仙拓社長佐藤仙務
  • 仙拓副社長松元拓也

僕らは逆境を
乗り越え夢に生きる

10万人に1人といわれる難病・脊髄性筋萎縮症を抱えた青年2人が、会社を立ち上げた。25歳の佐藤仙務さんはベッドの上、28歳の松元拓也さんは車椅子の生活をそれぞれに強いられながら、社員も雇用して奮闘中である。逆境の中でも前進し続ける2人の悲喜交々の日常と、心に抱き続けてきた志を伺った。

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重度障碍の2人で会社を経営

──きょうは、若いお二人が難病をものともせずに会社を経営なさっていると伺って参上しました。よろしくお願いします。

佐藤 わざわざお越しいただいて、ありがとうございます。

松元 こちらこそ、よろしくお願いします。

──いまは愛知県知多市のこちらのマンションの一室に事務所を構えていらっしゃるのですね。

佐藤 はい。もともと会社の住所は僕の自宅になっていたんですけど、お客様がだんだん増えてきて、自宅だと不都合なことも多いので、3年くらい前に事務所を構えようという話になったんです。

松元 佐藤も僕も、ここに来るのは週に3、4日くらいで、2人で打ち合わせをしたり、お客様をお迎えする時に使っています。
最初は2人の中間地点にしようって決めたはずなのに、若干佐藤寄りになっていましてね。もし事務所を移すことがあったら、今度は僕んちの近くにしてくれよって言ってるんです(笑)。

──「仙拓」という社名がとてもユニークですね。

佐藤 2人の名前から1文字ずつとっているんです。「仙」という漢字には世俗にとらわれない人という意味があるし、開拓の「拓」という字と組み合わせることで、新しい道を切り拓いていくっていう僕たちの思いにピッタリな社名になりました。

──仙拓では、どんなお仕事をなさっているのですか。

佐藤 5年前に立ち上げた時から、名刺とホームページの制作をずっとやってきました。安倍総理の奥様と懇意にしていただいていて、総理の名刺もつくらせていただいているんですよ。
最近はもうちょっと広がりが出てきて、サイボウズさんという会社のサービスを使った社内システムや、スマホのゲームアプリの開発もやっています。

松元 仙拓では佐藤が社長なんですけど、アプリ開発は「ムーンパレット」という子会社にして、僕が社長をやっています。
最初につくった「歯磨き日和」というゲームアプリの紹介用動画は、1万回以上再生されてヤフーニュースにも取り上げられました。去年(平成27年)は2本目の「よけろ菜っ葉」もリリースしたんですけど、もともと遊びが好きなので、エンターテインメントの分野で楽しみながらやっています。

仙拓社長

佐藤仙務

さとう・ひさむ

平成3年愛知県生まれ。愛知県立港特別支援学校高等部商業科を卒業。1年間の準備期間を経て、平成23年、19歳の時にウェブ制作会社・仙拓を設立。社長に就任。日々の業務と並行して、講演活動や執筆活動を展開。著書に『寝たきりだけど社長やってます』(彩図社)がある。

社員はもうじき6人全員が障碍者

──ご自分たちの力でそこまでなさっているとは、驚きです。

佐藤 僕も松元も、他に働く場所がなかったからこうするしかなかったんです。もちろん、重度障碍の僕らを受け入れてくれる授産施設がないわけではないんですが、ひと月働いてやっと1万円前後というのが現実なので、自分たちの将来を考えて、もっと違うことにチャレンジしてみたかったんです。
それで僕が高校を出る時に、一緒に仕事をしようって松元を誘ったんですけど、その時は経営のことなんか何も知りませんでした。ですから一所懸命情報収集をして、いい税理士さんにも恵まれて、何とか会社を立ち上げることができました。
最初は2人の役員報酬も月に1万円くらいしかありませんでしたけど、やるからには一般企業と同じくらいの給料はほしいと考えて頑張ってきました。波はありますけど、おかげさまでちょっとずつ利益は増えています。

──お二人で力を合わせてここまで頑張ってこられたのですね。

佐藤 ええ。ただ、お互いにタイプが全然違うし、社長は僕ですけど、松元のほうが3つ年上ですからね。2人とも仕事では妥協したくなくて、ほとんど喧嘩のような感じで本音をぶつけ合ってやっていますよ(笑)。

松元 もともと波長が合わなかったしな(笑)。

佐藤 ただ、お互いに仙拓という会社が大好きで、この会社をよくしたいという思いは一緒なんです。
いまは仲間も僕らを含めて4人になっているんですが、たぶん年内に2人増えて、6人になる予定です。皆障碍者なんですよ。

松元 実は少し前、佐藤がインフルエンザでしばらく入院していたんですけど、同じ時期に僕以外のメンバー全員が入院してしまいましてね。どんな虚弱企業やねんと(笑)。

佐藤 あの時は、たぶん全員同じことを思ってた。「松元、後は頼んだ」って(笑)。
でも、うちのメンバーは皆すごいんですよ。一人、筋ジストロフィーを患っている大阪の人がいましてね。最初はその人の中に働くって考えはなかったんですけど、僕らと出会ってからすごいバイタリティーを発揮して、いまは病院で仕事を続けているんです。僕も仕事は好きなほうですけど、入院した時はなかなかモチベーションが上がりませんでした。でもその人は、入院してからもまだまだ仙拓についていきたいと意欲を示していて、僕もまだまだ甘いなと思い知らされたんです。

──お互いに刺激を与えながら奮闘なさっているのですね。

松元 ただ、こうして仕事ができるのも周りの方々のおかげです。サポートしてくれる家族もそうですし、応援してくださるお客様もたくさんいらっしゃって、本当に周りの方々のおかげでいまがあるというのは断言できるよな。

佐藤 そのとおり。周りの方々のおかげでいまがあるというのは、本当にそう。

松元 働きながら、いつもそのことは実感しています。僕らは本当にたくさんの方々に支えていただいているんだなぁって。

仙拓副社長

松元拓也

まつもと・たくや

平成元年愛知県生まれ。愛知県立ひいらぎ特別支援学校卒業。平成23年佐藤仙務さんとともにウェブ制作会社・仙拓を設立。副社長に就任。デザイナーとして制作業務を担当。平成26年には子会社ムーンパレットを立ち上げ、アプリ開発にも取り組む。