2025年10月号
特集
出逢いが運命を変える
インタビュー②
  • 奈良親子レスパイトハウス代表幹事富和清隆

病気や障害と
生きる子と親に
〝善き出逢い〟を

社会にはいまこの瞬間も、難病や重度障害の子を抱え、一切気の抜けない日常を生きる家庭がある。「命あるものすべてが栄えることを望む」――聖武天皇は、奈良の東大寺大仏の造立にこの切願を込めたという。その境内の片隅に、そうした家族を招き入れ、日常を離れた親子の憩いの時間、命の交流をつくろうと心を砕く人たちがいる。施設の代表である富和清隆氏は、いかに親子の人生を輝かせてきたのだろうか。

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    「生まれて初めて、親子で川の字で寝ました」

    ──東大寺大仏のお膝元ひざもとで、重い病気や障害のために常時ケアが必須のお子さんを家族ごと受け入れ、いこいの場を設けているお医者様がいると聞き、まいりました。

    すぐそばに大仏殿があって、なかなかいい雰囲気でしょう?
    この建物は、長年使われていなかった大正時代からある東大寺の職員宿舎を、一部改築して使わせてもらっているんですよ。

    ──たたみの居間に昔ながらの木の渡り廊下、素敵な庭園があり、外に鹿の姿も見えます。不思議と心が落ち着きますね。

    この「奈良親子レスパイトハウス」は、同じ境内にある東大寺福祉療育病院で副院長をしていた平成22年に立ち上げました。
    いまも平日の大半はその東大寺福祉療育病院で、主に難病や重度障害の子たちを診療しています。現在は病院の母体である東大寺福祉事業団の理事長でもあるので、週末にここで活動できるのは月に1~2回なんです。

    ──〝親子レスパイト〟とはどういう意味なのでしょうか?

    レスパイト(respite)は休息という意味の英語です。医療や福祉の分野では、親が、手を離せない子供たちを病院や福祉施設に預けるレスパイト入院、短期入所といった福祉制度があります。
    ただ、これには課題もありましてね。預けられた子は、施設の慣れない職員のケアに不安を覚え、親は、自分の休息のためということで、申し訳なさを感じてしまう。

    ──共に負の感情が湧きがちだと。

    それではいけない。「この家の子でよかった」「この子の親でよかった」と喜べる、それでこそ命が輝くことだと思うんです。
    以前迎え入れたあるご家族に、こんな声をいただきました。「人生で初めて、畳の部屋で親子3人、川の字で寝られたことが本当に嬉しかったです!」。嬉しさと共に、改めて教えられました。生まれてからベッドを離れて寝たことがない子、親が子供と寝そべることができない家庭があるんだと。
    子供とご家族が一緒になって、「介護される者」「介護する者」という関係から解放され、共に生きる喜びを再発見してもらう。これが私たちの提案する〝親子レスパイト〟の形です。

    奈良親子レスパイトハウス代表幹事

    富和清隆

    とみわ・きよたか

    小児科専門医。昭和24年大阪府生まれ。43年東大寺学園卒業、50年京都大学医学部卒業。その後、聖路加国際病院小児科レジデントなどを経て英国ロンドンに留学、神経遺伝学研究に従事する。帰国後、大阪市立総合医療センター小児神経内科部長、京都大学大学院医学研究科教授を経て平成22年東大寺福祉療育病院に入職。同年東大寺境内に奈良親子レスパイトハウスを設立。