2020年9月号
特集
人間を磨く
鼎談
  • (左)日本BE研究所所長行徳哲男
  • (中)関ジャニ∞村上信五
  • (右)思風庵哲学研究所所長芳村思風

感性を磨く生き方

5月18日にフジテレビで放映された『関ジャニ∞クロニクルF』にて、村上信五氏が「人生で最も影響を受けた本」として紹介した一冊——それが『いまこそ、感性は力』である。この出来事を機縁に本書の著者である行徳哲男氏、芳村思風氏との鼎談が実現した。村上氏が本書と出逢ったきっかけ、感銘を受けた言葉やエピソード。また、いまなぜ感性が大事なのか、いかにして感性を磨くか、コロナ禍を過ごす上で大切な心構えとは何か。異色の組み合わせが織り成す人間学談義から学ぶものは多い。

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    一冊の本が結んだ奇妙な縁

    芳村 村上さんが『かんジャニエイトクロニクルF』というテレビ番組の「人生で最も影響を受けた本」を紹介するコーナーで、『いまこそ、感性は力』を推薦してくださったことにより、眠っていた本が息を吹き返しました。驚くと共に心から湧き上がるよろこびを感じています。

    村上 いえ、こちらこそ。まさかこのような形でお声掛けいただけるとは思いも寄らなかったので、とても楽しみにしていました。

    行徳 本当に不思議なご縁ですね。私は長いこと山にこもって研修をやっていますので、新聞も読みませんし、テレビも見ない。そういう娑婆しゃばを断つ生活をしています。だから、実は関ジャニ∞って聞いた時に、心斎橋の「かに道楽」と間違えて妙なグループがあるもんだなと(笑)。失礼ながら村上さんのことも全然知りませんでした。

    村上 当然のことだと思います。

    芳村 番組を拝見しましたが、グループの皆さんが村上さんのことを読書家だとおっしゃっていて、お部屋は図書館みたいだと。

    村上 そんなたいそうなものじゃありません(笑)。先生方に比べたらはしにも棒にもかからないです。

    芳村 読書家の村上さんがこの本を選んで推奨していただいたのはものすごく感激でした。その後、日を追うごとに嬉しさが倍加していきましてね。というのも致知出版社から次々と増刷の連絡をいただいた(笑)。
    この本が映ったのはわずか10数秒にもかかわらず、注文が殺到したと知って、村上さんの影響力はすごいなと。それはやっぱり村上さんが多くのファンから尊敬され、信頼されているあかしだと思います。そういう高い人間力を持った方から評価を得て、数多くの本の中からこの本を選んで紹介していただいたことに、何か天の啓示のようなものを感じています。

    村上 尊敬する先生にそんなふうに言っていただいて光栄です。

    行徳 それは私も思風しふう先生と同じ思いでしてね。私は2020年88歳、米寿べいじゅですから、若い方たちにこの本を読んでもらえることの嬉しさは格別です。

    村上 僕のほうこそ、素晴らしい本に出逢わせていただけたことに感謝しかありません。
    この本を拝読してから、物のとらえ方や考え方が少し変わってきました。学歴がなくてもいいんだと自信を得られたこともそうですし、たとえ世間の見解と違ってもそこに迎合げいごうする必要はなくて、自分の感覚を大事にして発言することに勇気を持てたんです。
    年を重ねれば重ねるほど、知らないことばかりが増えていって、知らない世界に触れれば触れるほど、以前は「学んでいかなきゃいけないんだ」と捉えていたのが、いまは「一生学んでいけるんだ」「こんなに面白い世界があるんだ」と思えるようになりました。

    日本BE研究所所長

    行徳哲男

    ぎょうとく・てつお

    昭和8年福岡県生まれ。35年成蹊大学卒業。46年日本BE研究所設立。行動科学と禅を融合した感性を取り戻す研修を行う。著書に『感奮語録』(致知出版社)など。

    本を閉じ、目を閉じ、天を仰いだ箇所

    行徳 村上さんはどうしてこの本と出逢ったんですか?

    村上 もともとは友人からの紹介でした。飲食店を営んでいる友人が東京で事業に失敗して、広島の実家に戻る時、親御さんから「これを読め」ということで、先生方の本を読んだそうなんです。その時にすごく感銘を受けたと。
    で、いまから5~6年前、その友人に「村上君も一回読んでみぃ」と言われて、思風先生の『人間の格』と先生方の共著『いまこそ、感性は力』が送られてきました。その友人は僕より10歳ほど年上の方ですが、人に対するおもてなしの精神などが非常に魅力的で尊敬していましたので、その友人からの薦めなら素直に読んでみようと思ったんです。
    最初に読ませていただいた時はもう分からんことだらけでした。なぜそもそもこの2冊なんだろうというのが正直な感想でしたし、やっぱり哲学は難しいと。そんな入り口で、分からない言葉はメモを取って調べながらだったんですけれども、気がつくとスラスラと最後まで読み終えていました。
    読んでいる途中で、一度本を閉じ、目を閉じ、天をあおぎ、「うわっ、なるほど」とみ締める箇所がいくつかあったんです。
    芳村 嬉しいですね。

    村上 もちろん一度で100%の理解というわけにはいきませんでしたが、その後も1年に1回くらい、ページの角に折り目をつけたり、線を引いたりしたところだけでも読み返すんです。今回もこの鼎談ていだんのご縁をいただいて、いま一度拝読したんですけど、やっぱり引っ掛かるポイントは一緒だなと。
    その一つが森信三しんぞう先生の言葉。
    「人間は一生のうち逢うべき人には必ず逢える。しかも一瞬早過ぎず、一瞬遅すぎない時に」
    これはもうスパーンと降りてきましたね。「まさにきょうのことやないか」と思いながら(笑)。

    行徳 ハッハッハ。

    芳村 本当にそうですね。

    村上 僕は森信三先生のことをこの本を通して知り、『修身教授録しゅうしんきょうじゅろく』もいま途中まで読ませていただいているところなんです。
    それから、行徳ぎょうとく先生が紹介されていた「雪がとけたら何になる」。あのくだりにはめちゃくちゃ心を動かされました。

    行徳 ある小学校の先生が子供たちに「雪がとけたら何になる?」と聞いた時に、ほとんどの子供が「水になる」と答えた中、たった一人だけ「春になる」と答えた子供がいた(『朝日新聞』深代ふかしろ惇郎じゅんろう氏の天声人語より)。

    村上 「水になる」を○にして、「春になる」を×にした。その先生にこそ×をつけたいと行徳先生はおっしゃっていましたね。この話は僕の中でいまだに一番残っていますし、たぶん友人に50回くらい話していますよ(笑)。
    それこそ日本人の感性というか、四季という感性がなかったら出てこない発想ですものね。シンプルな言葉にも拘らず、あそこの一文に日本人の情緒が詰まっていて、非常に感銘を受けました。

    思風庵哲学研究所所長

    芳村思風

    よしむら・しふう

    昭和17年奈良県生まれ。学習院大学大学院哲学博士課程中退。45年思風庵哲学研究所設立。感性論哲学の創始者。名城大学元講師。著書に『人間の格』(致知出版社)など。