2021年4月号
特集
稲盛和夫に学ぶ人間学
我が心の稲盛和夫⑧
  • 人材教育家井垣利英

私を救ってくれた
プラス思考

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「誰にも負けない努力をいまも必死に続けている」

「塾長はいつからご自分がビッグになったと実感されましたか?」

単刀直入にこう質問したのは、稲盛和夫塾長がJALの再建に成功し、2013年に取締役を退任された後に行われた盛和塾せいわじゅくの懇親会の席でした。きっと多くの方が気になりつつも聞けなかったことだと思いますが、遠慮せず率直に質問したのは私くらいでしょう。この時の塾長の返答は、録音しておけばよかったと思う、新鮮な驚きと感動の内容でした。

「自分をビッグだと思ったことは1度もない」

塾長は静かにそうおっしゃったのです。私は驚いてこう質問を重ねました。「盛和塾生はもちろん、それ以外にも多くの方が尊敬し、塾長の教えを仕事に活かしていることはご存じですよね?」

「それは知っている」
「会社が上場した時とか、運転手さんがついた時とか、自覚された段階ってないんですか?」

私は少しでも塾長に近づきたい上に、頂上に立たれている気持ちをどうしても教えていただきたかったのです。ところが塾長はこうつぶやかれました。

「いままでずっと誰にも負けない努力を重ね、いまも必死にその努力を続けているだけだから、自分がビッグだと思ったことはない」

この返答に感動しました。既に81歳を迎えられていた塾長が、いまなおド真剣に毎日を過ごされている。京セラやKDDIの成功、JALの再建など、誰もが目を見張る功績を残しながら、なおも謙虚であり続ける。その姿勢に心を揺さぶられたのです。

塾長はよく「誰にも負けない努力をする」「謙虚にしておごらず」とおっしゃいますが、常に言行一致されていて、まったくぶれることがありません。しかもそこに「実践しなければ」という義務感は微塵みじんもなく、体にみ込んでいて自然体なのです。私はこれまで幾度となく、手を合わせて御礼をされる塾長のお姿を拝見してきました。

人材教育家

井垣利英

いがき・としえ

愛知県生まれ。中央大学法学部卒業。フリーアナウンサーなどを経て、平成14年シェリロゼ起業。全国の企業で、やる気&マナーを高める「社員研修」や、プラス思考、モチベーションアップ、マナー、年中行事などの「自分磨きスクール」を東京と名古屋で開催。合計で年間100本ほど手掛ける。著書に『仕事の神様が〝ひいき〟したくなる人の法則』『開運#年中行事はじめました』(共に致知出版社)など多数。