2025年7月号
特集
一念の微
一人称
  • 流通経済大学付属柏高等学校サッカー部監督榎本雅大

信念は偉大な夢を
成し遂げる

今年(2025年)1月の全国高校サッカー選手権で、見事決勝進出を果たした流通経済大付属柏高校サッカー部。監督就任5年目にして大きな実績を上げた榎本雅大氏の道のりは、名監督の後任という重圧の中での歩みであった。榎本氏はいかにしてこの試練を乗り越えたのか。そして少年時代から積み重ねてきた高校サッカーに懸ける一念とは。

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    「木鶏の如く」をスローガンに

    今年1月、私が監督を務める流通経済大付属柏高校(以下、流経)サッカー部は、高校サッカーの頂点を決める全国高校サッカー選手権大会(冬の国立)で、決勝戦への進出を果たしました。

    対戦相手の強豪・前橋育英高校とは1対1のままお互いに譲らず、PK戦に突入。10人ずつのり合いの結果、8対9で惜敗しました。

    敗れはしたものの、限りなく優勝に近い準優勝であり、選手たちの健闘を心からたたえたいと思います。何よりあの国立競技場の大舞台に立てたことは、この上なく幸せなことでした。

    あれから約半年。優勝まであと一歩、否、あと半歩、我われに足りなかったものは何か──決勝の大一番で与えられた人生の宿題と向き合い、そして頂点を垣間見た自分たちだからこそできることを追求する日々を重ねてきました。

    今年掲げたスローガンは、「もっけいの如く」。木鶏とは、私が愛読する『致知』から学んだ言葉です。訓練を積んだ闘鶏とうけいは、あたかも木彫りの鶏のように何事にも動じず、体中に徳がおういつしているという意味で、東洋古典『荘子そうじ』に由来します。

    実際、私がこれまで見てきた強豪チームは、いずれもこの木鶏の如くに堂々と、自信に満ちあふれています。その自信は、常に矢印を自分に向けているところからきているのではないかと私は思います。たとえ不本意な局面に陥っても、仲間やコーチ、親のせいにするのではなく、自分に力がなかっただけと内省を深める。そこから、さらなる成長の足がかりをつかむことができると思うのです。

    これを踏まえて各部員は、目前に迫った試合に対して、チーム、個人がそれぞれどんな目標を持って臨むのか。グラウンドでやるべきこと、グラウンドの外でやるべきことを、毎週1枚のシートに書き出し明確化しています。

    私が重視し、シートの一番上に記入欄を設けているのが奉仕活動です。各人が毎週家庭と寮内でやることを決め、実践するのです。

    分野を問わず、チャンピオンになる人の言葉には、必ず周りの人々への感謝の念が込められています。その感謝の念を行動で示す奉仕活動を習慣化することで、強さの源となる「チームのために」というマインドをはぐくむことができると私は考えます。また、奉仕活動は自分と向き合う大切な時間でもあります。きょうはやっていなかった、忙しいのを理由にサボってはいけないな、などと内省を深める機会にもなると思うのです。

    流通経済大学付属柏高等学校サッカー部監督

    榎本雅大

    えのもと・まさひろ

    昭和53年山形県生まれ。小学生時代にサッカーを始める。平成13年国士舘大学体育学部卒業。在学中に関東大学選手権、総理大臣杯、全日本大学選手権でそれぞれ優勝を果たす。14年流通経済大学付属柏高等学校の教員となり、サッカー部コーチに。令和2年同サッカー部監督に就任。