2019年3月号
特集
志ある者、事竟ことついに成る
  • 早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授平田竹男

一流を超一流にするもの

原 普氏、桑田真澄氏などスポーツ界で華々しい活躍をした選手や指導者がその門を叩く早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の「平田ゼミ」。一流の選手たちはそこで1年間、平田竹男氏の指導を受けることでさらに大きな成長を遂げるという。平田氏の目指す超一流の人物とはどのようなものか。そして、その育成方法とは。

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一流のアスリートを社会の超一流リーダーに

早稲田大学大学院スポーツ科学研究科にある平田竹男研究室(平田ゼミ)の社会人修士課程一年制コースには、他の大学のどこにもない特徴があります。「一流のアスリートを、社会における超一流のリーダーに育てたい」という私の志が、教育の根幹にあることです。

平田ゼミは2006年度にスタートし、2018年度までの13期で約130人の社会人修士を送り出してきました。その中には読売巨人軍元投手で野球解説者の桑田真澄氏、青山学院大学陸上競技部長距離ブロック監督の原すすむ氏、パラトライアスロン選手の谷真海まみ氏といった名だたるプロの指導者や選手も多くいます。彼らが一年間の学びを通して、それぞれの立場でブレークスルーを果たしてきたことは特筆に値します。

ここでは、いくつかの実例を交えながら、私の教育メソッドの一端を紹介してみたいと思います。

私の授業体系のベースには、若い頃にハーバード大学で学んだ経験があります。私は通商産業省(現・経済産業省)官僚だった1987年、キャリアアップを目的に同大学J・F・ケネディスクールのミッドキャリアプログラムに入学しました。ここは政治学、法律学、経済学などを学んで行政学修士を取得する、いわばビジネススクールの政治版で、ミッドキャリアプログラムとは社会人向けに設けられた一年間のコースです。

私はここで、いまの自分とこの先なりたい自分の差をどのように埋めていけばいいのか、自分の考えをいかに印象づけながら的確に相手に伝えられるか、さらにリーダーとして社会を変えていく道筋をどう立てていくか、といったことをサイエンスとして学びました。

一つのケーススタディとして、ボルチモアで起きた大火事が取り上げられたことがありました。周辺の地域から消防車が数多く集まったものの、消火栓の規格が地域で異なるために大混乱を招き、被害は拡大してしまいます。このような火事を起こさないためにはどうしたらいいかを皆で考えるわけですが、単に解決策を見出すだけではありません。自分の考えをいかに大衆に浸透させるか、説得ある弁論、根回しはどうあるべきかというところまでしっかりと落とし込むのです。

このようにリーダーとして一つの物事を解決に導く濃密な時間を共有することで、懇親会やパーティーの場においても、世界一流の話題が通常会話レベルで当たり前のように飛び交うようになります。ケネディスクールでの一年間の学びが私の人生を根本から変えた、と言っても過言ではありません。

内閣官房参与、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授

平田竹男

ひらた・たけお

昭和35年大阪府生まれ。横浜国立大学経営学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。63年ハーバード大学J・F・ケネディスクールで行政学修士を取得。退職後平成14年から日本サッカー協会専務理事。現在早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授のほか、内閣官房参与、内閣官房東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部事務局長などを務める。東京大学工学博士。著書に『超一流論』(双葉社)など。