2018年12月号
特集
古典力入門
我が人生の古典①
  • 東京理科大学栄誉教授藤嶋 昭

理系の私が中国古典に
出逢い、掴んだ法則

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我が師・ファラデーから受けた影響

私の科学者としての原点は、読書好きだった中学生の時に『ロウソクの科学』という1冊の本に出逢ったことにあります。これは電磁誘導の法則を発見したイギリスの科学者、マイケル・ファラデーが70歳の時に少年少女に向けて行った講演をまとめた本です。ロウソクがなぜ燃えて、燃えるとなぜ水になるのかを説明しながら、科学の面白さを語った内容にすぐに魅了され、高校では科学部に入り、実験に明け暮れる日々がスタートしました。
 
しかし、ファラデーの真の魅力を知ったのは大学生になってからだったように思います。私自身が光化学の実験に打ち込むからわら、伝記や55年分のファラデー直筆の実験ノートを読みあさり、実験の神様と称される彼の生き方や成し遂げた偉業の素晴らしさに改めて感銘を受けるようになったのです。
 
貧しい家庭に生まれ育ったファラデーは小学校を卒業後に製本屋に丁稚でっち奉公に出されます。勤勉な性格だったため昼休みには仕事場にある本を読むようになり、特に科学に興味を持って、無我夢中で読み進めたといいます。独学で英王立研究所助手の職をつかみ取ると、以後50年近く研究所の屋根裏部屋に暮らし、実験道具も手づくりしながら熱心に研究を重ねました。
 
その結果、もし当時ノーベル賞が設立されていたら、6つの賞を受賞したと言われるほどの功績をあげたのです。
 
彼は非常に謙虚で金銭欲も名誉欲もなく、科学の魅力を人々に伝えたい一心で、精力的に講演活動を行いました。現在私は年に百回ほど、全国各地の中学校、高校や企業などで科学の面白さを伝える出前授業を実施していますが、ファラデーから受けた影響が大きいことは言うまでもありません。
 
中国古典を読むようになって、その教えに共感したのも、少年の頃にファラデーの謙虚で誠実な生き方に触れたことと無関係ではないでしょう。

東京理科大学栄誉教授

藤嶋 昭

ふじしま・あきら

昭和17年東京生まれ。東京大学大学院博士課程修了、工学博士。42年に酸化チタンを使った「光触媒反応」を世界で初めて発見し、化学界で「本多・藤嶋効果」として知られる。53年から東京大学工学部助教授、教授などを経て、平成17年に東京大学特別栄誉教授。22年から30年3月まで東京理科大学学長。29年文化勲章を受章。長年ノーベル化学賞候補として名が挙がっている。著書は『時代を変えた科学者の名言』(東京書籍)『理系のための中国古典名言集』(朝日学生新聞社)など多数。